緋女 ~前編~
「追いつかない背中をずっと追ってた。最初は確かに母だった。けどっ、__やっぱりいいや。ごめん、何にもない」
俺はその夢の続きを知っていた。
けど、黙ってうなずいて知らない振りをする俺はずるいだろうか。
でも、夢の続きを言葉にしてしまったら、何かが壊れる。
夢は夢のまま。
「……あっ!そういえば、あの日の夢をあの池に入ったときも見たの。誰かが私に見させてるんだと思ってたけど、違うみたいで」
そうやって話題を見つけてホッとしている彼女。
だが、俺はその言葉にはっとした。
彼女が魔法を使えないのは俺のせいじゃない………っ!
「最近見ておりませんが、ゴル様とシル様はっ?」
「うん、私もたいした用がないからうるさいしあんまり呼ばない。この数日見てないわ」
「嘘だろっ」
「えっ?」
「お前のそれはただの夢じゃない」
完全に失念していた。
俺がついていながらこんなことが起きるなんて。
「ゴルとシルを呼べっ」
「ん?なに、どういうこと?」
「俺の予想が正しければ、俺が呼んでも答えない」
「そっ、そうなの?」
「とっとと、呼べ。主はお前だ。早くしないと手遅れになるぞ」
「わっ、分かった」
彼女が一拍置いて叫んだ。
「ゴル、シル………!」
影が答えない。
手遅れ、だったか___?
影が死ねば、人も死ぬ。
彼女も___
そんなの駄目だっ
「なんて情けない面かのう?」
「我らほどではないがな」