緋女 ~前編~
「ゴル、シル……?」
最初にまみえた時とはまるで違うその姿。
「嘘……」
抜け落ちる羽と妖しげな艶を失った毛なみに、彼女は色を失った。
「落ち着け。大丈夫だ」
「でもっ」
「お前がそういう顔してるから、こいつらは傷ついてんだよ」
「えっ……?」
「お前、何に悩んでる?」
「いきなりなんなの?」
「いいから答えろ」
そう言って俺は彼女に詰め寄った。そして、掴みかかろうとしたが彼女の着るVネックに気がついてやめる。
「べっ別に悩みっていうか、こんな知らない世界に放り込まれたらストレスくらい溜まるでしょ?」
「じゃあ、なんでこんなになってんだよ」
「なんでって言われても……大丈夫なんでしょう?」
「__それはお前次第だ」
俺がそう言った時の彼女の瞳の恐怖は、言ったのが自分でも戸惑うほどだった。
「……いつも、いつも。いったい私の何がいけないの?」
その瞳の色は俺も知っていた。
「それは聞くことじゃねえよ」
俺の血濡れた道には付き物だ。
後悔、懺悔、嫌悪。
それに対するどうにもならない恐怖は、そう易々と消えてはくれない。
でも、俺はそれを越えて得たいものがある。
だから、潰れない。
いくらでも這い上がる。
しかし、今の彼女の道にそんなものあるだろうか?
「お前が少しでも悪いと思ったら、悪いってちゃんと反省しろ」
でも、もし彼女に
他人を傷つけて、自分も傷ついても
その先に手に入れたいものがあるなら
後悔なんて口にしない方がいい。
「悪くないなら、同情なんてするんじゃねえ。罪悪感なんか抱かねえで胸張ってろ」
意味のない傷にだけはしない。
それだけが、傷つけた人への償いなのだから。