緋女 ~前編~
「本当に?」
「約束だ」
「昨日から私たち約束ばっかりね」
確かに、俺は必要のない約束をいくつかした。
彼女の敵にならない。
彼女の首を絞めない。
彼女を捨てたりしない。
「ありがとう」
彼女が俺を軽く押しやる。
「で、私はどうすればあの子たちを救えるの?」
そう言って、ぐったりとこちらを見て何も言わないゴルとシルをその手にすくい上げた。
彼女の瞳は真剣だ。
あの今にも壊れてしまいそうな儚げな色は見えない。
一瞬、俺は彼女の全てだと勘違いしてしまっていた。
これはあくまで目的達成の一手に過ぎず、彼女はその踏み台。
俺は先ほど取り乱してあらぬ考えが浮かんだことを無視して、彼女に向き合った。
「最初に申しましたように影はもう一人の自分です」
「うん………あんまり実感ないけど」
「はい、どちらかと言えばわたくしももう一人の自分とは思っておりません。わたくしは運命共同体と考えております」
「運命共同体?」
「ええ。影が死ねば自分も死ぬことはお話ししたと思います」
「うん、まあ」
彼女はあの時のことを思い出しているようだ。
俺も覚えている。
俺に命を握られても別にいいと言った彼女も、死ぬことは怖くないと言った彼女も。
「つまり、彼らがこのまま弱ればレヴィア様も。ですが、影が死ぬことはほとんどありません」
「珍しいことなの?」
「そうですね。かなり」
「………ねえ、もしよ?彼らが死んでしまう前に私が死んだら、彼らはどうなるの?」
彼女は背を向けて、こちらにはそう言う彼女の本当の気持ちが分からない。
彼女は俺の答え次第で死んでもいいとでも思っているのだろうか?
嘘を言ってもいい。
だけど、なぜか彼女と目が合うといつもいつも見透かされている気がして、嘘がつきずらい。
俺は彼女の背中に結局こう答えた。
「諸説あります。ただ、亡くなった者の影を見たものはおりません」
「影も死んでしまうの?」
「そもそも生き物かも微妙なのでなんとも」
「確かに、ね」
ひとつ、うなずいて彼女は黙りこんだ。