緋女 ~前編~
「__影が死ぬとしたら、それは自分の中の矛盾から来る穢れが原因だと言われています」
「矛盾?」
彼女は俺のこの言葉を復唱した。
時々、頭の悪くなる彼女。
ここまで言っても分かんないのか?
それとも本当は分かりたくないのか?
「思っていることとやってることが違うとか、とにかく自分の正義に反していると、それは矛盾が生じています」
「そんなのたくさんあるじゃない。いちいち気にしてたらきりがない」
「でも、レヴィア様がいちいち気にしているから、今彼らはこうなってるんです」
「………胸の奥にしまって置いても駄目なの?」
「影はもう一人の自分なんです。己を写す鏡だと思っていい」
「………」
「つまりレヴィア様の心は死にそうなんです」
はっきりこう言うのがいいか悪いかで言えば、絶対悪い。
でも、彼女に分かってほしい。
この世界には、そういう死が確かにあることを。
人はこれを俗に自殺という。
「それともうひとつ、あの池で見させられたのは自分の正義が一番否定された時だと言われています」
「……そう」
「あと、何度も同じ夢を見るのも影からの警告だと思っていい。矛盾の原因はそこにあります」
そこで俺は一呼吸置いた。
「夢にわたくしが出てきたというのなら、レヴィア様の矛盾の原因の一端にわたくしがいるはずです」
そう言った俺をおびえた瞳が映した。
どうやら彼女は、なぜ俺が原因の一端なのかは教えたくないようだ。