緋女 ~前編~


「………それは」

「言いたくないなら結構です。来週にはわたくしから解放され寮生活ですから、それで少しは気が晴れると思います」

彼女が迷いに迷って言いそうになったそれを、俺は遮った。

俺に話しても仕方ないと思っているのも見えたし、それが腹立つ。

それに聞くのは少し怖かった。

彼女が俺に何かを望めば、またいらない約束をしてしまう気がした。


今度こそ、取り返しのつかない約束を。


「……学校に行っている間に死んでるかも」

不意に彼女が俺を見つめてそう笑った。

「大丈夫です。レヴィア様の首を絞めようと思う奴などいないでしょう」

「__それもそうね。でも来週まで待つとゴルとシルが可哀想よ」

それはもっともな言い分だった。

彼女に今死なれたら俺も困る。


「そうですね………レヴィア様、この世界でやりたいこととかありますか?」


「やりたいこと?」

「はい、来週まで嫌なことが少しでも紛れるように、好きなことをする時間をもうけましょう」

「好きなこと………ねえ、本当にラ___王子に会って来ちゃ駄目なの?」

これには、無意識に顔をしかめてしまった。

「しつこい」

「えっ……ごめん」

思ったよりも低い声に自分の方が驚く。

「いえ」

俺は何をやっているのだろう。


俺たちはどちらともなく黙って考えに沈んでいた。


「ケイ、決めた」

唐突に彼女がそう俺に呼び掛けるので、少し不自然なまでに素早く答えた。

「はい、なんでしょう」



「ケイの一番好きなところ、連れていって」



俺はこの言葉に瞠目した。


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