緋女 ~前編~
「魔力を………?」
「はい。魔力の根源は影にあり、影は自分でもある。なので、人の命を吸うとよく表現されます」
だから一部から、影は死んだら死色の桜に還ると言われてもいる。
「物騒ね、なんでここを選んだの?」
「一番好きな場所なので」
「一番好きなのにそんな説明する?」
確かに。
好きな理由。
俺には説明できない。
なぜ、この場所に囚われるのかも分からないのだ。
美しい。でも、そんな形容詞にはとどまらない。それが掴めない。
「………見たくないのに目が離せないんです」
正直に感じたことを言った。それとしか言いようがない。
「レヴィア様、わたくしは一生もうここへは戻ってこないと思ってました」
それが何の因果か、彼女と共に来ている。
「ここで、大事な人が死んだとか?」
彼女が神妙に聞く。
俺が命を吸うだのなんだの言ったからだろう。
「いえ、あの時の大事な人は今もあの城で生きています」
追っ手から逃げていたとき、俺の支えになっていたのは、確かにあいつだった。
けど、俺は変わった。
逃げるうちに考えがどんどん歪んでいった。
あいつが今いる場所は俺のものだ。
そう思って、妬み続けてここまで来た。
「………王子?」
不意に彼女が言った。
その言葉に目を見開く。
「__全て知っていたのか?」
心の底から冷たくなっていく。
ずっと知っていて、騙していたのか?
何も知らない馬鹿な、でも可哀想なくらい人の温もりに飢えた彼女。
何をしても、俺の全てを受け入れてくれた彼女。
捨てないと、ずっと一緒の約束を交わした彼女。
全部嘘だったのか___?
「はっ、そうか。そうなのか。………じゃあ、これからどうする?悪いが、なに一つ譲るつもりはないぞ」
「えっ、何を言ってるの?」
訳が分からないと言う顔の彼女。
ああ、そうやって俺を今日まで騙していたのか。
「演技上手だな。非女の娘。俺の正体を知ってるんだろ?」
俺は黒の髪を触った。瞬間、金髪に変わる。
「俺の憎き異母妹さんよ」