緋女 ~前編~


「___もうないのよ」


自分の嘲笑が含まれた言葉を彼に叩きつけた。

腹が立っていたのは確かだった。

けど、この告白が意外にも心地の良いものだった。
まるで十七年分の叫びを全部吐き出したようで、今なら何でも言える気分だ。
この見るものを焼きつくすゴールドアイも怖くない。


「私は、私。他の何者でもない」


強く言霊にのせる。

ずっと言えなかった一人称。
私はもう母がための人間ではない。


「私は母に捨てられたの」


ふと思った。
ずっと昔からこの日を心の中で待ち望んでいたのかもしれない。



いい子じゃない私の本音を誰かに聞いてもらえる日を。



「だから私も母に教えてもらった名前を捨てる。だから名前はない」

だが、彼が何か言うことは期待していなかった。いつだって私の質問は無視だし。


でもその彼が私に初めてまともに答えてくれた。
 


「___奇遇ですね。わたくしも名前なんてなかったんですよ。もうずっと長く」


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