緋女 ~前編~
「えっ………」
「何を言われたのか分からないって?そんな顔もう通用しないんだよっ」
「待って、お願いだから。何が気に入らないの?」
「お前の全部だよ」
その言葉に彼女の瞳が揺れた。
泣くのか?
なんなんだよ。俺のことまた騙そうってか。
だけど彼女の全部が本当に思えて___、俺は馬鹿だ。
もう、嘘か本当か考えるのも疲れた。
信用なんてしない。
最初からそう決めてたんだ。彼女の全部を利用するって。
振り出しに戻っただけ。
「来いよ、俺と組めば王座の隣にお前を座らせてやる」
「それって……?」
未だとぼける彼女にカチンと切れた。
「王妃にさせてやるって言ってんだ。それとも、王座を狙いに還って来たのか?」
「それは王子と結婚しろってこと?」
また、とんちんかんな問いが返る。
「お前が結婚するのはこの俺だ。何のために今までお前の傍にいたと思ってる?」
「ケイと私が結婚?」
信じられないものでも見る目。
あー、そうか。
俺はこのゲームに負けていたのか。
「王子様に惚れてんのか、お前」
「は?」
なぜかこの言葉に彼女がキレる。
「王子が大好きなのはケイでしょ?」
「俺がいつそんなこと言った?」
「は?だっていつも私が王子といたら怒るし、引き離すし、会っちゃ駄目って言うし。………それって、王子に対する独占欲でしょう?」
王子に独占欲?俺が?
謎の彼女の思考回路に戸惑った。
「だから城で生きてるケイの大事な人は、絶対王子のことだと思ったのに、なんで急に怒るの?いいじゃない、ケイが王子を好きってこと、秘密だったの?」
「何言ってるんだ?」
待て。
じゃあ、彼女は全てを知ってた訳じゃなく、俺が王子を好きだと勘違いしただけ?
分からない。
また、騙されてる?
「___もう、お前は信用しない」
彼女が悪女でもなんでもなく、何も知らない馬鹿な女だったとしても、もういいや。
俺には関係ない。
彼女が誰を好きであろうと関係ない。
「今日のことは忘れろ」
そう言ったのは気まぐれだった。
彼女が本当に何も知らないなら、知らないままに。
そう心の内で思ったかもしれないが定かではない。
泣きそうな顔の彼女の記憶を少し修正して魔法で消した。