緋女 ~前編~
「レヴィア様?」
営業スマイル。まただ。いつものことなのに、なんで違和感しか感じないんだろう?
なんで、こんなに切なくなるんだろ?
私が心動かされるのは、母だけ。
今も、昔も。そうでしょ?
だから、こうして魔法覚えて母の元に帰ろうと思っているのに。
「ああ、もうひとつ」
返事がないのも気にならないようにケイが言った。
「レヴィア様、当然ここでは代わりの違う名前を名乗っていただきます。私が決めて学校に話はつけてあるので、変更は効きません」
「ええ、なんでもいいわ」
母に貰った名前以外は特に何の意味もない。
「では、ヒメ___」
「なんで、それをっ⁉」
なんでケイが母が私にくれた名を知っているの?
「えっ………と、思い出したのか?」
焦った顔のケイが怖い顔をする。
ていうか、敬語じゃない。こんな取り乱したケイは初めて見た。
「思い出したって何?聞きたいのはこっちよ。どうしてケイが元々の名前を知っているの?」
それは、全てなくしても心の奥にしまってあったもの。
忘れたくても、忘れられなかったもの。
私だけのもの。
なのに、なんでケイが………。
「あちらではヒメリアと名乗っていたのですか?」
額に手をあてため息交じりにそう言うケイ。その少しほっとしたその表情に私もほっとした。
「あっ、違う」
なんだ。似たような名前にされただけか。
「では、お互い誤解だったようで」
ケイが苦笑いを浮かべて言う。
ん?
お互い勘違いですれ違って、ケイに怖い顔させて。なんかこの感じ最近あったような……気のせいか?
まあ、ケイがこんな怖い顔したのも今日が初めてだし。
気のせいに決まってる。
「そうみたいね。分かった。今日から私はヒメリアね」
「はい」
「じゃあ地面に穴開けますかっ」
こうなったらやけくそとばかりにそう言って、私は魔力を解放した。