緋女 ~前編~
「派手にやってくれたねぇ」
やっぱりそうなりますよね。
ええ、学校行くのに地面破壊とかおかしいとは思ってたんですけど、ケイが……。
「すみません、ヒメリア様は短気なので」
営業スマイルで謝るケイ。
言ったのはケイだと抗議しようと口を開いたら、
「あっ、いやー貴方が謝る必要は。苦労するね、こんなお嬢さんの世話なんて」
と、地面からこんにちはと出てきた学校の先生らしき人が言った。
あの時も心臓がびっくりして止まるかと思うくらい凄い形相で睨んできたけど、今も睨まれている。
「いえ、ヒメリア様の過ちはわたくしのせいでもあるので」
あっ、やっと本当のことを言う気になった?
「いや、庇わなくてもいいんだ。貴方はとても優秀なんだろう。だが、この世にはどうにも出来ないことがあってな、その一つがお嬢さんの横暴なんだろう」
良いこと言った風にうなずくこのオヤジ。なんか、腹立つ。
そしてケイを見る目が怪しい。
「どうだい?貴方もこんなお嬢さんのお守りはやめてこの学校で働かないかい?__わたしは本気だよ」
やっぱり、そうだ。
この人の目はケイを完全に狙ってる。
私はそういうのに偏見ないけど、なんだろう?
むかむかする。腹立つ。
「駄目です、先生」
私はいつの間にかそう言っていた。ケイが横で目を見開いたのが分かる。
「はっ、お嬢さんに止める権利があるのかい?」
「ないです。ですが、あなた以外にもたくさんケイを必要としてくれてる人がいるんです」
城でここ数日に彼に紹介された人達を思い浮かべる。みんなケイを信頼してた。
ケイはここではなく、あそこでの仕事がある。
これで私がいない分、たくさん溜まっていた仕事が出来るとも出発前に言っていた。
なぜか胸は痛むけど、私は今まで通り母だけのためにまだちゃんと生きてる。
母は私を捨てたけど、私は母を裏切ってない。
そのことに今は満足している。
「きっと、ケイにも裏切りたくない人がいるんです」
「ビン底眼鏡のお嬢さんのくせに何言ってるんだ?カッコつけて。そういうの迷惑でしょ」
確かに、出過ぎた真似。
ケイがどこで働こうが関係ない。
言葉が出ない……。
「先生」
突然、彼が言った。
「これ以上、何かヒメリア様に言うのは許しません」
すごく低い声。
どこかで聞いたことある気がする。
なんか最近私は変だ。