緋女 ~前編~


「ケイ、まだついてくるの?」

その言葉にケイは私の顔を一瞬見て、黙ってまた歩き出す。私は慌ててその背中を追いかけた。

地下から上がってきたオヤジ先生とは気まずいまま別れて、私たちは言われた事務局に向かおうとしていた。

どうやらケイは嘘をついていたようで、地下に繋がる玄関は別にあった。

いったい何のために嘘をついたのか。

「ねえ、ケイ」

思いきって聞こうと声をかけるが、その台詞にかぶせるようにケイが言った。

「レ__ヒメリア様、質問いいですか?」

「えっ………、まあいいけど」

私も聞きたいことがあったのに。とは、言わないでおこう。

「では」

一呼吸置いてケイがこちらをかえりみる。



「貴女の思うわたくしの裏切りたくない人って誰ですか?」



「さあ」

なんで苦しそうな顔をしてるかは分からないが、正直に答える。

「でも最近は私までたくさん人に紹介したじゃない?“この方がシュティ・レヴィアです。我々は強い味方をつけました。大丈夫です、勝てますって”」

あの時の真剣な瞳は本物。


「何が大丈夫何だか。だって私は大したこと出来ないわ。ケイもわかってるでしょ。それでも、とにかくあの人達を安心させたかったんだよね?」

うまく説明できないことを何とかして彼に伝える。

「だから、大事な人、いや仲間なのかなって」

言い切ったことに満足した私にケイはなぜか暗く笑った。

初めて、彼が本気で怖いと思った。

「なっ何?」

「馬鹿な女ですね」



“遅いんですよ、全て”



「仕方ないので約束は守りましょう。では、わたくしはこれで」


そう言って、ケイは私の前から消えた。


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