緋女 ~前編~


「なにぼーっとしてんの?この階段のぼるよ」

「えっ、あーごめん」

考えるのを一旦やめて目の前に現れたなぜか木造の急な階段をのぼる。

ショウが先行をきって、私たちははしごのようにそれをのぼった。

少し長かったように感じたが、上から光が射し込んできている。あそこまでで終わりだろう。

しかし、サボるにはうってつけかもしれない。

こんなところまでわざわざ見回りには来ないだろう場所だ。


「ほら、手かして」


先にのぼりおえたショウが言う。

最後が一番の難所だったので、ありがたく手をとって無事にのぼりおえた。

少し息をついて、周りを見渡す。


「えっ」

なんでもありな世界とは認識していたけれど、これは予想外だった。

いや、よく考えれば当然か。


「僕のお気に入りの場所だよ」


「そう、なんだ」

「レヴィも気に入ったー?」

「………驚いた」

「うん、空に触れてしまうんだからびっくりだよねー」

“それとも天井と呼ぶべきか”

そう似合わない低い声を発する。



「ここに居たらさ、この手が届かないものなんて何もない気がするんだよねー。だから、好き」



地下に造られた学校。窓があって空があった。

そして、確かに今この手はその空に触れている。

でも、本物じゃない空はこうして手が届く位置にあっても、感触はただの天井と同じ。



「__偽物は偽物でしょ。本物には手が届かないわ」



そう、私は冷たく返した。


「本当に欲しいものは手に入らない。どんなに頑張ってもね」


そう、私が母に愛してもらえなかったことも

私の一番の好きがライサーではないことも。

全て、努力圏外だ。



「えー、偽物じゃダメなの?」


その甘えたような声は、否定されたことを気にしている様子が全くない。


ただ、笑わない漆黒の瞳が私を試すようにこちらを見ていた。


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