緋女 ~前編~


「いいんじゃないって。………レヴィ、僕は本気だよ?これは正当な望み」

「分かってるよ。でもね、王様が悪いわけじゃない」

ちゃんと努力する王様だっている。



「悪いよっ。理由もなく人を人とも思わず殺すんだから」



私の言葉にかぶせるように紡がれたその言葉に私は底知れない感情を覚えた。

それはこの目の前少年だったら、自分の大義名分のために今否定したことをするのではないかという複雑な感情。

別に、将来ショウが犯罪者になっても私は困らないだろう。

悲しくもないだろう。

ただ、何も言わなかった自分を正当化する何かを見つけてそれにすがって汚ならしく生きていくだろう。



けど、今はそれじゃいけない気がした。

私の手の中にある数少ない持ち物の中でも大切なものが、そう叫んでる。



「理由があったとしても殺したら、負けよ」



「__負け?」

「そう、負け」



理由があれば人は殺していい。

確かにそれだけの理由がショウにはあるのだろう。

それは正当なのかもしれない。

日本も死刑があって、死ぬべき人間なんだと判断される人がいる。


でも___


「世の中にはね、殺す理由があればやっぱり殺さない理由もあるの」


現に、死刑があっても執行されずに晩年を牢屋で過ごすことが多い。

「どんなに理由がないように見えても、あるのよ」

私が母に愛されなかった理由も。

「それを知る前に事実だけ見て気に入らないからって、切り捨てて逃げるなんて___負け以外に言いようがないでしょう?」

「………気に入らないって、そんな簡単なことじゃない」

「あら、簡単なことよ?」

私は深い漆黒の闇に包まれた瞳を見た。

「ショウは王様を殺してでも自分が王様になる理由があるみたいだけど、その後は?王様になって何をしてくれる?理由のある殺ししかしない?でも王様が突然代わって困る人は必ずいる。そういう殺しちゃダメな理由無視してる」

少年の瞳の揺れを感じ、そこで一呼吸置いた。



「殺す理由はあるのかもしれないけど、その覚悟があるの?」


でも、そう思ったのは記憶の中でぼやけた誰かの言葉があったからだ。


“お前が少しでも悪いと思ったら、悪いってちゃんと反省しろ”


“悪くないなら、同情なんてするんじゃねえ。罪悪感なんか抱かねえで胸張ってろ”


「自分のせいで困ってる人を見て、理由があるって言える?可哀想だと思わない?同情する?___それも全部自分せいなのにね」


そう、私にはなかった。


「理由はないって言えるのが王様なのよ」


そうやって、全部の荷を背負える人。


ああ、思い出せない。

あの言葉は誰か___思い出せないことばっかりだ。



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