緋女 ~前編~
「あっ、そうだ。レヴィの連絡先ちょうだいっ」
「えっ?私ケータイなんて持ってないけど?」
「ケータイ?なにそれ」
あっ、そうか。
ここにはケータイなんぞなくていい魔法の世界。
「ごめん、なんでもない。えっと、私の連絡先?………城とか?」
「あー、これの使い方知らないのー?あっ、待って。ってことは、………あー。面倒なことになったな。あの先生気持ち悪いんだよねー」
私の手を見つめながらショウが独り言のようにそう言う。
「この手袋、連絡もできるの?」
「うん。ついでに、改造しないと場所特定機能ももれなくついてるんだよねー」
「改造なんてするんだ」
「うん。それじゃないとサボれないからねー」
「えっ?」
「授業終わったら、すぐサボった生徒を探し当てるよ。まあ、あの先生は僕には甘いから、困るのはレヴィかなー」
「嘘っ」
「こんなことで嘘ついてもしょうがないでしょー」
「どうしよう………」
学校生活の十年で先生に起こられることなんて一回もなかったのに。
サボると決めたわりに怒られる覚悟なんてしてなかった。クラスでの第一印象は悪くなるだろう。
最悪だ。
「ふふっ。ひとつ、案があるんだけど」
「……なに?ていうか、今笑った?」
「うん、笑った」
悪びれもなくショウがうなずく。こうしている間にも先生がやってくるだろう。きっと、あの地面から這い出てきた先生のことだ。ボロくそに言われるに違いない。
「なんかあるなら早くいってよ」
「えー、どうしようかなー?」
楽しそうな声。
「早くっ」
「人にものを頼むにも態度ってものがあるよねー?」
「__お願い」
別に、その辺のプライドは低いのですんなり言う。
まあ、ムカつくけど。
「やっぱ、気持ち悪いんだよねー」
独りショウはそう呟くが、わざとらしい。
「__じゃあ、僕のお願いも今度きいてね?」
「……分かった」
「よし、じゃあ契約成立」
そう言って、私の手袋を脱がせると自分の手袋を私にはめた。
「これで、よし。じゃあ、いこっか?」