緋女 ~前編~
はじめての授業、その先生
私たちは廊下を疾走した。周りの生徒がその早さに振り替える。
慣れない邪魔な眼鏡はずり落ちてきて困ったが、なんとか身軽な少年についていった。たぶん、遅く走ってくれているんだろう。
不意に先を走るショウが立ち止まった。
それはグリーオグ・レン先生と書かれた札の張ってあるドアの前。
「よしっ、後は先生に任せれば大丈夫かなー」
「えっ、先生っ?」
私は先生から逃げていたんじゃなかったか?
「うん。レン先生はレヴィの味方にきっとなってくれる、……たぶん?」
最後にショウが自分に保険をかけてそう付け足すのに目をむいた。
「たぶん?」
それはつまり、なんの確証もなしにここまで逃げてしまったというのか。
ショウには悪いが、こんなハイテクな魔法の世界で、そんな簡単にいい方法なんて見つからないだろう。
それによく考えてみれば、こんな逃げ回っても結局いつかは授業を受けなければいけないのだ。私は先生にどのみち見つかる。
「ショウが言うレン先生はドアの札の人?」
「もちろん」
つまり、ショウは私を助けてくれそうな優しい先生のところに連れてきてくれたのか。
ならまあ……ありがたい、のかな。
「あっ、やば」
「なに?」
その声にうんくさそうに私がそう聞いた。だが嬉しそうなショウは私の後ろに何かあるとでも言うように指さした。
「来た来た、来たよ。あのじじいっ」
「えっ?」
見つかった。
それが早いのか遅いのかは分からないが、とにかくピンチだ。
私は慌ててドアをノックした。
その直後に不安になってショウに意味もなく再確認する。
「えっと、ここの先生本当に助けてくれる?」
「うんっ」
無邪気な少年の笑顔とは裏腹に、底なしの漆黒の瞳が煌めく。
「自分はシュティ・レヴィアだって、ちゃんと名乗ったらね」
私は彼の言葉と同時に開いてしまったドアを見て思った。
またそれか__。