緋女 ~前編~
ドアから出てきたのは大柄な男だった。
なんとなく、お互い見つめあって沈黙する。
訪ねたのは私だから何かしゃべらなきゃいけないのは分かってるが、そのいかつい顔つきの男に助けてと言う勇気もないし、なんでもないと言う勇気もなかった。
この人が優しい先生なの………?
「……ショウ、こいつは?」
先に口を開いたのは男の方だった。
「んー、自分で名乗る言ってたんだけどー?ねぇ?」
意地悪そうに口を片方だけ器用につりあげて見せるショウを私は睨んだ。
別に名乗ってもいいけど、この少年の言いなりになるのは気にくわない。
「すみません。背が高くて思わずカッコいいなー、なんて。……私、ヒメリアといいます。今日からここに転校してきました」
少しの嘘を織りまぜて名乗る私にショウの鋭い視線が刺さるが気にしない。
「__ああ、そうか」
どこか上の空でうなずくレン先生。
「ヒメリア、確かに転校生が来ると誰かが言っていたような。でも、お前はいい奴だな」
先生は根拠もなく私にそう言う。
だが、そんな雑談をしていたらじじいが来てしまう。
「あっ、あの突然で申し訳ないんですが、助けて頂きたいんです。ショウからは優しい先生だとうかがってます」
私がそう言うなりショウが口をはさむ。
「あっ、先生照れてるー」
「うるせえ、バス・ショート」
………意外にチョロそうな先生にショウがここへ連れてきた意味をなんとなく悟る。
案の定ショウは先生をからかい続けた。
「えー、先生が生徒に照れるなんていいんですかー?まるでどこかのおじさん先生みたいー。___あっ、噂をすれば」
その台詞にショウの視線をたどると、五十メートルくらいはなれたところでゼーハーしてるじじいがいた。
ヤバイ。
だがショウはそんな私の焦りを我知らずとばかりに、じじいに手を振る。
止める間もなかった。
「せんせーい」
「あー、ショート君じゃないかっ?なんでこんなところに………私の授業はたまに受けてくれてもいいんだよ?」
あっ、普通に気持ち悪いかも。
だからショウも嫌いだと言ってたのか。
でもどう考えたって、わざわざ手を振る必要はなかったでしょ。
「ショウ、どうすんのっ」
「レヴィが名乗らないのが悪いんじゃない?」
冷たい目線。
なによ、それ。
「って、お前はさっきの」
残り二十メートル、じじいが私を見て嫌な顔をする。
「………ねえ、本気でどうするつもり?」
私はショウの耳元で低く囁く。
「僕に助けてほしいの?」
底なしのくせに真っ直ぐな瞳に私は頷く。
「お願い」
「分かった。でも、そんなに僕に借り作っちゃって、後で困っても知らないよ?」
その場合、困らせているのはショウだと思ったが、それは言葉にならなかった。
「そうか。サボって私の手をここまで煩わせたのは、お嬢さんだったか。全く、だからあの好青年が苦労するんだろう?」
いつのまにか、じじいが目の前に迫っていたのだ。