緋女 ~前編~


ショウはそんなじじいに笑わない笑顔を向けて言った。

「先生、ごめんなさい。でも僕先生の授業サボろうと思っていたわけじゃないんです。これを拾って」

私の手袋をそう言って見せる。

「なに、グローブが落ちていたのか?」

「そうなんですよー。放っておこうとも思ったんですけど、大切なものなので」

「そうか、なら仕方がないな。……で、お嬢さんはなんでこんなところにいるんだ?」

話を突然振られて戸惑う。


なんて言えばショウみたいに上手に誤魔化せる?


「えっとー」

そう言いつつ、バレないようにショウをチラリと見た。


“約束は守ってね”


ショウが口パクでそう伝えてくる。

私も伝えた。


“分かってる”


その言葉にショウは作り物めいた笑顔で先生に言った。


「先生、ヒメリアちゃんはこの手袋を探してたんです。ね、レン先生。それをレン先生が見つけて一緒に探してたんですよね」

「えっ、そんなことは__」

否定しようとする先生。

「レン先生、こんなことで謙遜しなくてもいいんですよ。レン先生は生徒思いの優しい先生だってことなんですから」

「そっそうか?」


チョロい。この先生本当にチョロい。


「しかしだなー、転校して早々授業をサボるとは__」

真逆にそう言ってじじいが食い下がる。思わずため息をつきそうになって、ギリギリに自分の立場を思いだし踏みとどまる。

「仕方ないじゃありませんか、先生。これがなければ転校生が教室を探し当てるなんて不可能でしょう?」

「確かに」

「それにレン先生がさっき、きつーくヒメリアを叱った後なので反省しているはずですよ」

大真面目な顔を作ってそう嘘ぶくショウ。

「そっ、それは」

「はい。もちろん対戦形式で」


対戦形式?


叱られている間、反抗してもいいという決まりでもあるのか?

「……なら、分かった。ただし、次はないからな」

「………」

ん。


「聞いているのか?」


その言葉が私に向けられたものだと気づいて慌てて頷く。


「はっ、はい。もちろんです」


私は深く頭を下げた。



噛み殺した笑いに気づかれないようにと思いながら。



何だか、友達との秘密の共有は楽しい。



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