緋女 ~前編~
「で、どうなってんだ?バス・ショート」
それはもっともな質問。
とりあえずじじいが消えて、私たちはレン先生の教室に入れてもらっていた。
殺風景なその部屋は机も黒板もない。
「ただ、サボりがバレただけだけどー?」
どこまでものんきなショウはそう答える。
「俺はあいつが苦手なんだよ。あんなの連れてくんな」
「それは僕も同じー」
それはたぶんじじいのことで、彼はどうやら嫌われやすい人物らしい。
他人のことは基本的にどーでもいい私も苦手というか、無理だと思ったし。
「そういえば、お前ら次の授業は?」
「レン先生だよ。さっき時間割り変更したから。ほらちゃんと書いてあるでしょ?」
そう言って、私の手をとって先生に見せる。私のつけていたショウの手袋には、授業変更手続きなる画面がうつっていた。
「分かった?まあ、そういうことでよろしくー」
「時間割り変更自分でできるの?」
私がショウの手袋を脱ぎつつ、そう聞く。ショウは私の手袋をそれと交換で私に返し、質問に答えた。
「当たり前じゃーん。って、あっ知らないのかー。あーそうか、そうか。あのねー、学年トップはそういう特権があるんだよー」
「学年トップ?ショウが?」
純粋に私はそう思ってしまっただけで、嫌味で言ったわけではなかった。
しかし、ショウは聞き流してくれはしない。
「__悪い?」
少しふくれた声。
計算し尽くされたその作られた子供っぽさに、ため息をつく。
「悪いなんて言ってないでしょう?……えっと、私の次の授業はっと………えっ?」
画面に表示された文字。
グリーオグ・レンの体術。
「私もレン先生の授業………」
「だよねー、だって僕が変更してあげたんだもん」
あっけらかんにそう言うショウの顔を睨む。
「他人の時間割りも操作できるの?」
「そういうことー。だって授業に嫌な奴いたら行きたくないでしょ?好きな人がいたら出たいでしょ?」
「つまり、貴方に嫌われたら貴方の出る授業には出られないと」
「うん」
その黒い笑みに私は嫌われないことを祈った。
「ったく、仕方ねえな。まあ、バス・ショート。お前の負けると分かってながら挑戦し続けるところはいいと思うし、ちゃんと評価してるぞ?」
「なんかムカつくねー、その言い方。僕は別にレン先生に評価されようなんて思ってないしー」
そう言うショウが一番生意気でムカつく。
「あー、それと」
そうわざとらしく彼はつけ足してみせる。
「僕、今日は負けないよ」