緋女 ~前編~
それからはあっという間だった。
何が起こったか分からないまま、ただ二人の戦いを見守る。
一つ分かるのは、体を互いにフル活用してぶつかり合っていること。
不意にショウが先生に思いっきり蹴られたように見えた。
ショウの体が飛んでくる。
ん?
飛んで、来る?
いや、待って。
ぶつかる___。
「うおっ」
来るはずの衝撃の代わりにあがったショウの驚きの声。
それに私は瞑った目をゆっくりと開く。
「あっ」
魔力の防波壁を知らぬ間に作っていたのだ。
魔力が使えるようになってきてからは、私にはこういうことがよくある。
私は慌てて魔力を解除して転がったショウに駆け寄った。ショウはピクリとも動かない。
「ごめん。ぶつかるって思って。平気?」
とりあえず、ショウに手を差し出した。
ショウは何も言わない。
沈黙の中、もっとちゃんと謝るべきだったかとか、グルグル考える。
思えばクラスメートにそんなこと考えたこともない。
怒ってるか考えるとか、謝るだとか。
そこまでクラスメートと関わったことがない。
母以外は眼中になかった私には、それは今までにない思考だった。
「………平気にみえる?」
ショウがやっとそう言って、沈黙は破られる。
迷子の私の差し出した手。それを無視してその場に座り込むショウ。
「やっぱ、シュティ・レヴィアだね」
どういう意味と言いかけて、やめた。その言葉に私は首をかしげてみせる。
「なに、言ってるの?私はヒメリア」
「あっそう。でも、さすがに鈍い先生にも分かったでしょ?」
「………」
「あーあ、衝撃的すぎたみたいだねー」
答えずに私をまじまじと見つめる先生を見てショウはそう言う。
いったい、どういうこと?
そう聞きたいのに、なんで?
なんで、私はケイの言葉ばかりは裏切れないの?