緋女 ~前編~
「………」
何か言おうとした気がしたけど、声はでなかった。
もう誤魔化しはきれない。
私は__何かを忘れている。
「レヴィ、ここに来るまでどうしてたの?」
「えっ……」
「なんでここに来たの?」
「………」
そんなに質問しないで。
また頭が痛くなるから。
「レヴィは誰に気を許したの?」
少年はそう暗く笑う。
私にはその質問の意図が分からなかった。ただただ、今は黙っていて欲しかった。
「そんな顔しないでよー。僕は心配してるんだからさー」
ショウの手がのびてくる。その時私はその手が首にのびてくるとなぜか思って、思いっきり目をつむった。
が、その手は私が頭をおさえていた手を包む。
「レヴィ、自分が記憶を消されていることに気づいてる?」
___記憶が消されてる?
心の中の呟きを感じたのかショウはそれに答えるようにして続けた。
「しかも二人にねー。一人はつい最近だけど、もう一人はかなり前。十年以上は経ってるよー?」
十年以上前って、私は日本にいて魔法とは無縁の生活をしていたはずだ。
私はシュティ・レヴィアでもなんでもなかったし。
「最近の方はもう効き目が切れてきてるよー。それでも、レヴィに術をかけるなんて相当の魔力の持ち主だよねー?………誰かな?」
「……っ、しっ知らない」
「じゃあ、最近一緒にいた人は?レヴィをここに連れてきた人は?」
なんなの?
ケイが何だっていうの?
「だってレヴィ、その人には気を許したんでしょ?」
ケイに気を許す。
確かにその通りだ。なぜか分からないけど、私はケイに一種の信頼を寄せていたように思う。
理由はないけど。
「でもさー、レヴィの記憶を最近消した奴?そいつの魔力の波動が僕が知ってる人に酷似してるんだー。………そんなことはあり得ないんだけどさー」
そう言って、ふと自嘲するような笑みを浮かべた。
「まあ、これはただの僕の願望かな」