緋女 ~前編~
言ってしまってから、なんだか恥ずかしい気持ちに襲われた。
二人は唖然とし、声も出ないようにみえる。
「……だから、このままとりあえず自然と記憶が戻るの待ってみるよ。近いうちに解けるんでしょ?」
そう早口になる私の頬は熱い。きっと真っ赤だ。
なんでだろう?
ケイを庇うのに後ろめたい気持ちなんてないのに、なんだかとてつもなく恥ずかしいことを言ってしまったような気がしている。
くすぐったいこの感情をなんと言うのだろうか。
「もしかしてさー、レヴィはケイが好きなの?」
ショウが強張った笑顔でそう私に聞く。
「えっ……」
もちろんこの質問が特別な好きであるか、という質問なのは分かっている。
でも、私がケイを好き?
そう考えているとまた頭痛がする。なんだか目の前がぐらんぐらんしてる。
私は考えるのをやめた。
「___私が唯一愛したのは母だけ」
そうでなくてはいけない。
考えるまでもない結論だった。
「そっか……」
私の瞳を覗きこんでひとつ頷いたショウは、その言葉が嘘ではないと納得したようだったが、少し不服そうでもあった。
「今日はレヴィア、もう休んだ方がいい」
ずっと黙って事の成り行きを見守っていた先生がそう言う。
「でっでも、これ以上授業をサボるわけには__」
「もう、今日の授業は全部終わってるよ。何時間寝てたと思ってるのー?」
ショウのいつもの間延び来た口調にほっとする。
正直、今日は疲れすぎていて授業どころじゃない。
「寮だろ?先生だから案内してやる」
「あっ、ズルイ」
「ズルくはないだろ。それに女子寮に男子生徒が入るのは禁止だ。着いてくるなよ?」
「えー、どうしようかなー。女子ならいいんでしょー?」
そう言って少年は漆黒の瞳を妖しく煌めかせる。
「じゃあレヴィ、あとでねー?」
「えっ…?」
「ほっとけ。ほら、行くぞ」
先生に引っ張られ、気になりすぎるショウの言葉を無理やり考えないようにした。