緋女 ~前編~
慌てて否定しようと口を開く。
が、やめた。
この漆黒の瞳に私なんかの誤魔化しは通用しないだろう。
「………来たっていうか、連絡があったの」
私はそう言って、ショウの真似で手袋をヒラヒラと見せつける。
さっき自分がやっていたことなのに、ショウはその私の手袋を奪い取って不機嫌に言った。
「誰から?」
「えっと___」
その質問になんて答えればいいのか分からない。
二人は知り合いなのか。
そうだとして、いったいどういう知り合いなのか。
分からないことが多すぎる。
それによく考えれば、ショウを警戒した方がいいとケイに聞いたら、分からないって言われたばかりだった。
下手なことは言わないに越したことはない。
「………私の執事よ」
嘘ではなかった。
ただ後ろめたい気持ちは私の中に確かにあって、敏感なショウはすぐそれに気づいてしまう。
「執事?__それ本当?」
ショウと先生には、ケイという存在を教えはした。だが私に付ききっきりでいたとは話していない。
ケイの事は城で私と関わっている人くらいな認識のはずだ。
だから、執事と言ってもケイとは結びつかないだろう。
「えっと、正確にはお世話役兼教育係だったかな?」
「ふーん、じゃあ、そいつの事で何隠してんの?」
ほら、やっぱり。
さっき話に出たロチス・ケイだと言ってしまおうか。
でも、私には二人の関係を口出しすることも、探りを入れることも、許されない気がしていた。
そう思うのもショウの言葉が蘇るからだ。
“魔力の波動が僕が知ってる人に酷似してるんだー。………そんなことはあり得ないんだけどさー”
“まあ、これはただの僕の願望かな”
それにケイにショウのことを聞いた時の妙な間。
だが、いくら私が気になって考えても仕方ない。
「___そんなに気になるんだったら、週末彼に会う?」
それだけショウに言って、心の中でもうひとつ付け足す。
彼も望んでいることだし。