緋女 ~前編~


慌てて否定しようと口を開く。

が、やめた。



この漆黒の瞳に私なんかの誤魔化しは通用しないだろう。



「………来たっていうか、連絡があったの」

私はそう言って、ショウの真似で手袋をヒラヒラと見せつける。

さっき自分がやっていたことなのに、ショウはその私の手袋を奪い取って不機嫌に言った。

「誰から?」

「えっと___」


その質問になんて答えればいいのか分からない。


二人は知り合いなのか。

そうだとして、いったいどういう知り合いなのか。


分からないことが多すぎる。


それによく考えれば、ショウを警戒した方がいいとケイに聞いたら、分からないって言われたばかりだった。


下手なことは言わないに越したことはない。


「………私の執事よ」


嘘ではなかった。

ただ後ろめたい気持ちは私の中に確かにあって、敏感なショウはすぐそれに気づいてしまう。


「執事?__それ本当?」

ショウと先生には、ケイという存在を教えはした。だが私に付ききっきりでいたとは話していない。

ケイの事は城で私と関わっている人くらいな認識のはずだ。

だから、執事と言ってもケイとは結びつかないだろう。

「えっと、正確にはお世話役兼教育係だったかな?」


「ふーん、じゃあ、そいつの事で何隠してんの?」


ほら、やっぱり。


さっき話に出たロチス・ケイだと言ってしまおうか。

でも、私には二人の関係を口出しすることも、探りを入れることも、許されない気がしていた。


そう思うのもショウの言葉が蘇るからだ。


“魔力の波動が僕が知ってる人に酷似してるんだー。………そんなことはあり得ないんだけどさー”

“まあ、これはただの僕の願望かな”


それにケイにショウのことを聞いた時の妙な間。


だが、いくら私が気になって考えても仕方ない。


「___そんなに気になるんだったら、週末彼に会う?」


それだけショウに言って、心の中でもうひとつ付け足す。



彼も望んでいることだし。


< 189 / 247 >

この作品をシェア

pagetop