緋女 ~前編~


ショウはそれに頷く。


「ぜひとも、会いたいねー」

「じゃあ、週末彼が私を迎えに来るから玄関までついてきてね」

何気なく言ったその言葉だったが、それにはショウは笑わなかった。



「うん…………もしかしてさ、その執事ってロチス・ケイ?」

一瞬答えにつまる。

「そうだって言ったら?」

「__別にどーもしないけど」


「けど?」




「なんか、嫌な感じがする」


なんでショウはロチス・ケイという存在をこんなにも警戒してるんだろう。


「気のせいじゃない?ケイは優しい人だって言ってるじゃん」

「いや、それがなんだけどね………。まあ、いいや。レヴィ、また明日」

「うっうん、明日」


私の返事を待たず背を向けるショウにそう声をかけたが、ドアの閉まる音が一人になった部屋に響いただけだった。


みんなそうやって突然消える。

また明日という約束は嬉しい。
けど、明日に期待すればするほど裏切られるのが怖くなる。


こんな恐怖は母だけにだと思ってたし、母だけで良かった。


けど、それは違った。



私は母以外を好きになるまいとしてただけで、母以外も好きになれる。


そして
人を好きになった数だけこの恐怖は私を支配する。


きっと私は、母を裏切ると言い訳して、この恐怖から逃げて他人との関係を拒絶してきたのだ。


母は絶対裏切らないと思っていたから。


「___ゴル、シル」

どうしようもなく一人が寂しくて彼らを呼んでみる。

「久しいな、我が乙女」

「なんじゃ?」

期待通り二人が寄り添うように私の隣に現れる。


その時不意に胸をかすめたのはこんな疑問。


「あのさ、私の正義ってなんだろうね」


答えはなかった。

影はもう一人の私。
私が知らないことは彼らも知らない。


「この間までははっきり答えられたの。私の正義は母だけのためにあるって。だから私、母以外を想うことに抵抗があった。でも、今は少し違う気がするの」

これには二匹も頷く。

「それは妾も感じているのう」

「そうだな。前は正義に反しているという認識だったが、今は正義が変わってきているという認識だ」


「前?」

「ああ。魔法も使えなかった時だ」



「ねぇ、じゃあその時私は母以外の誰を想ってたんだろう?」


< 190 / 247 >

この作品をシェア

pagetop