緋女 ~前編~
ショウはそれに頷く。
「ぜひとも、会いたいねー」
「じゃあ、週末彼が私を迎えに来るから玄関までついてきてね」
何気なく言ったその言葉だったが、それにはショウは笑わなかった。
「うん…………もしかしてさ、その執事ってロチス・ケイ?」
一瞬答えにつまる。
「そうだって言ったら?」
「__別にどーもしないけど」
「けど?」
「なんか、嫌な感じがする」
なんでショウはロチス・ケイという存在をこんなにも警戒してるんだろう。
「気のせいじゃない?ケイは優しい人だって言ってるじゃん」
「いや、それがなんだけどね………。まあ、いいや。レヴィ、また明日」
「うっうん、明日」
私の返事を待たず背を向けるショウにそう声をかけたが、ドアの閉まる音が一人になった部屋に響いただけだった。
みんなそうやって突然消える。
また明日という約束は嬉しい。
けど、明日に期待すればするほど裏切られるのが怖くなる。
こんな恐怖は母だけにだと思ってたし、母だけで良かった。
けど、それは違った。
私は母以外を好きになるまいとしてただけで、母以外も好きになれる。
そして
人を好きになった数だけこの恐怖は私を支配する。
きっと私は、母を裏切ると言い訳して、この恐怖から逃げて他人との関係を拒絶してきたのだ。
母は絶対裏切らないと思っていたから。
「___ゴル、シル」
どうしようもなく一人が寂しくて彼らを呼んでみる。
「久しいな、我が乙女」
「なんじゃ?」
期待通り二人が寄り添うように私の隣に現れる。
その時不意に胸をかすめたのはこんな疑問。
「あのさ、私の正義ってなんだろうね」
答えはなかった。
影はもう一人の私。
私が知らないことは彼らも知らない。
「この間までははっきり答えられたの。私の正義は母だけのためにあるって。だから私、母以外を想うことに抵抗があった。でも、今は少し違う気がするの」
これには二匹も頷く。
「それは妾も感じているのう」
「そうだな。前は正義に反しているという認識だったが、今は正義が変わってきているという認識だ」
「前?」
「ああ。魔法も使えなかった時だ」
「ねぇ、じゃあその時私は母以外の誰を想ってたんだろう?」