緋女 ~前編~
誰もいない図書室、その番人
翌朝、私が食堂で朝ごはんパンを口につっこみつつ思うのはただひとつ。
__朝は嫌い。
もう何度でも言いたい気分だ。
それもこれも原因は
「聞いて驚きくださいっ。昨日女子寮でバス・ショート様にお会いいたしましたの」
と、隣から一方的に喋りかけてくる声のせいだ。
ショウが女子寮にいた?それは私が一番よく知ってます。
とは言えない。
厳しく言及されて取り返しのつかないことを言ってしまうかもしれないから。
だが、私が相槌も打たないのをまるで気にせず、彼女は喋り続ける。
「それで、それだけでも十分驚かれてるとは思うんですのよ。ですがもっと驚くべきことに、なんと私に声をかけて下さったんですわっ」
「へー、何の用だったんですか?」
それは気になったのでちょっと聞いてみる。
「よくぞ聞いて下さりましたっ。そうふたり出会った瞬間見つめあい、それから何も言えず惚けた私にバス・ショート様は笑いかけ、制服貸してって………あー、もう人生で一番最高な瞬間でした」
なるほど。
女子用の制服の入手はこの子からだったのか。
えっ、でもちょっと待って。
「あの、制服ってその時着てなかったんですか?寮内は部屋以外は基本制服ですよね」
「えぇ。もちろん規則を守り、私は制服を着てましたわ」
当然のことのように答えるこの子に、急に不安を覚えてきた。
「___その場で着ていた制服ショウに渡したんですか?」