緋女 ~前編~
「そうですが、それが何か?」
私は唖然とした。
いくらミーハーでバカだって、その場で着ていた制服を脱いで渡すなんて………。
それにショウの場合、見てないからとか言っても絶対見てそうだし。
「だっ大丈夫ですか?」
「なっ何がでしょう?」
私に突然肩を掴まれたことに驚いている彼女を、私は本気で心配していた。
「ショウ___いえ、そのバス・ショートという人に何かされていませんか?」
「何か………」
そう呟いて考え込む彼女。
いや、考えることじゃないでしょ。即答してもらわないと困るとこだよ。
「あっ!そういえば………」
何かを思い出したような彼女。
「そういえば?」
「別れ際に握手しました」
食堂の椅子からずっこけたい気分だ。
「その時、“君、可愛いね。顔借りたいよ。いいよね”って」
「………」
「私、バス・ショート様に口説かれてしまったんですっ」
顔借りたいとか、どんな口説き文句だよ。
「そうなんですか?すごいですね」
そう言って私は彼女から手を離した。
大体心配してやる義理もない。
「それじゃあ、私はこれで」
食べ終えた皿がのったトレーをもって会釈する。返事は待たなかった。
そのままトレーを返却口におく。
「待って」
後ろから何か聞こえた気がするけど無視をし、私は昨日入らなかった自分のクラスに向かうべく手袋を確認した。