緋女 ~前編~



暗い気持ちのまま私は図書室に向かった。

地図からしても図書室は相当広い。どんなに落ち込んでいても、本好きの血が広い図書室と聞くと騒ぐ。


それに少し気になっていることがあった。調べたかったから、それもちょうどいい。


まだ文字は全く慣れないけど、ケイがくれたこの眼鏡もあるから難しい本でも大体は読めるはずだ。


しばらく歩いて、私の手袋に映った現在地と図書室の入り口が重なったところで顔をあげる。

目の前には木製の飾りげのない両開きのドア。


辺りが妙に静かだと思ったら、いつのまにか周りに生徒は誰もいなくなっていた。


「ここの生徒、あまり図書室を利用しないのね」


独りそう呟いて右の方のドアを開ける。
だが、開けた瞬間光が射し込んで思わず目を瞑った。



その眩しさに馴れるのを待ってゆっくりとまぶたをあげる。



「__わあ」


まさに私が夢見た世界だった。

壁一面の本。
本の独特の香りとステンドグラスからの光。



そして、もう一人の本の住人。


「………」

制服じゃない彼は眼鏡をかけていた。

たぶん、ここの司書なのだろう。
カウンターがどこにあるのかは知らないが、彼は業務を忘れて相当本に夢中になっているようだ。私が入って来たのにも気づかない様子で本棚の一角で立ち読みしている。


なんだか、ほっとした。


本は私に“独りでも一人じゃない世界”をくれる。

もし二人で読めたなら、そこには相手を独占できる二人の世界が待っているはずだ。


私は思った。
今のこの淋しい気持ちを埋めれるのは、この世界だけ。



そこには現実なんて必要なかった。


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