緋女 ~前編~
だが現実問題、長くはここにいられない。
ここに来るまでに七分ほどかかったのだ。その間は特に迷わなかったし、そう考えると教室までの帰りも十分はかかる。
次の授業まではあと十五分。
ここにいれるのはせいぜい五分だ。
ため息を吐く私は彼の邪魔にならないように目的の本を探した。
別に彼との出会いは今じゃなくてもいいだろう。
ここに来れば彼はたぶん、また居る。
逃げたりしないし、消えたりしない___。
そう思って私は棚の並びを慎重に見逃さないように見ていった。広い図書室だ。見逃したらまたもう一周しなくてはいけない。
私が気になっていたのは変身術に関してだ。
ショウは昨日、それはショウしかできないのだと言っていた。
けど、私は一度見たことがある。
ケイが瞳を金から黒に変えたのを。
あれが変身術の一部であるなら、ショウの言っていたことは間違いだ。
ケイも、できる。
あの二人の関係はどうしようもなく気になる。
お互いの存在を疑っているようだけど、私にはどちらも存在している人だ。
そして私は二人を繋ぐことができる人間。
その時、それらしい本を見つけて手に取った。
開いて内容を確認しようとするけど、何故か文字が霞む。
眼鏡の不調だろうかと、眼鏡を取ると雫が本に落ちた。
「雨漏り?」
なんて独りすっとぼけて見るけど、ここは地下だ。雨は降らない。
不思議がってる時間はない。
早く読まないと。
早く読んでショウの淋しい漆黒の瞳を驚かせて、ケイには私の学校の友達だとショウを紹介して___
「って、やだな。私が考えてることって結局___」
結局、私の前から突然消えてしまう人のことじゃない。
また、雫が落ちた。
歪んだ視界に映るのはぼやけてしまった世界だった。