緋女 ~前編~
慌てて、涙をふいて立ち去ろうとした。本はもとの場所に乱暴に入れて、足早にドアへと向かう。
ドアが半分開いたままになっていたのを確認してほっしとた。ドアの開閉であの人がこちらに気づくことはないだろうが、早くここから出てたかった。
誰にも見られたくなかった。こんな自分。
ショウが笑ってくれたのは、励ますために一生懸命だった私。
ライサーが好きになった私だって、そう。
ケイはよく分からないけど、泣いている私なんてもっと必要ないだろう。
こんな自分、私だっていらない。
なんで今さら泣くの?
ずっと独りだったじゃない。母が私を愛してくれたことなんてなかったじゃない。
独りなんて___怖くなかったじゃない。
また、雫が落ちた。
止まって。お願いだから。
私は泣きたくなんかない。
泣きたくなんか、ないの___。
「………湿気は本の保存によくありませんので、泣くの止めていただけませんか?迷惑です」
あぁ、これはきっと本に夢中だった彼の声だろう。
最悪な出会いだ。
でも絶対零度のその声音は、私に何故かケイを思い出させる。
「………すみません、すぐ出ていきます」
声を震わせないように気をつけたけど、かすれた声は泣いていることは隠せないだろう。
出直そう。きっと、顔も見せてないから二度目に会ったときは私と分からないはずだ。
「セルヴィア?」
彼の動揺した声が後ろでした。私は無視した。これ以上声を出したら、その音に私はまたきっと泣いてしまう。
それに残念だけど、私はセルヴィアではない。
心のなかでそう呟くのは、答えられない代わりだ。
みんな、なんで私を誰かと間違えるんだろ。
もう、うんざりなの。
みんなシュティ・レヴィアの私と仲良くしたいだけなのかもしれない、その思いが頭から消えない。
でも、シュティ・レヴィアと間違えられても、その名で間違えられたことはない。
セルヴィアなんて。
けど、どこかで聞いたことがある。
それもつい最近に___
___セルヴィア、と。
そうだ。
それは、セルヴィアは、昨日ショウが言ってたシュティ・レヴィアの母の名前だ___。