緋女 ~前編~
彼の質問に答えようとして慌てて出た言葉は酷かった。
「あのえっと私は、なんて説明したらいいのかよく分からないんですけど、本当はシュティ・レヴィアじゃなくて、でも、一部の人にそう名乗らせていただいてます………」
言ってる途中からこれはまずいと思った。だんだん声が小さくなって、口ごもる。
駄目だ。
これじゃ、気を遣ってますって言ってるようなものだ。
「分かってますよ。………セルヴィアは貴女には何も言わなかったんでしょう?」
彼が口ごもった私にそう言った。
沈黙から解放されてホッとすると共に、また胸が痛むのは気のせいではないのだろう。
彼のセルヴィアと呼ぶ声は優しすぎる。
「セルヴィアはそういう人です」
「そう、ですか………」
反応に困った。
正直、私は自分をシュティ・レヴィアだと思ってはいない。もちろん彼の愛するセルヴィアの娘でもない。
でも、ここで彼の言葉を否定するのは、相当な勇気を持ち合わせていない限り無理だろう。
いや、少なくとも私はそうだ。
だからと言って、頷くのも何か違う。
「信じてませんか。そうですね、___いいものがあります。貴女にはお見せしましょう」
その時、授業開始のチャイムが遠くで鳴るのが聞こえた。
彼が弾かれたように私のカツラをかぶせてくれる。だが、不器用な彼はケイがすんなり被せたものに苦労していた。
それを終えて私の瞳を真っ直ぐ見つめる彼。
「放課後来てくださいますか?」
約束___。
その怖さを彼は知っていているのだろうか?
「忙しくなければ、行きますね」
私は彼との約束に戸惑い、保険をかけてそう言った。