緋女 ~前編~
約束の貴女に
なぜ?
思うのはそれだけだった。
彼女の魔力の行き先はあの図書室だった。誰も見向きもしない図書室。
別にこの学校は書を読まないようなバカばかりが集まっているわけではない。それどころか国中の優秀な者を集めた、未来の国を支えるべき臣下を育てる学校である。
ただ別に本がなくても、大抵は手袋を駆使すれば、読みたい本も手袋から読むことができる。
図書室なんかに行く必要はない。
彼女は知らなかっただけと思うけど、なんだか不安だ。
あそこには、妖精人間がいる___。
遠い昔に僕を産んだあの女が言っていた。妖精人間は白家当主に恋い焦がれていたのだと。
なぜ、彼女から目をはなしてしまったんだろう。
そんなこと思うなんて全く僕らしくない。非女の娘が誰に会おうと、誰と繋がろうと、僕は僕らしくかっさらってしまえばいい。
終わり良ければ全て良し。
「ショート様?」
不意に腕に巻ついてきていた女が、僕を見上げてそう言うのが聞こえてきた。
「なーに?」
この娘たちは知らない。
この僕に不用意に触ってはいけないことを知らない。
無知とはなんて愚かで幸せなんだろう。
でも、知っても愚かなことをする彼女はなんなんだろう。
僕の能力を知っていてこの体に触れてくるなんて、もうきっとあのバカなグリーオグ・レンという先生くらいだと思っていた。
グリーオグ・レンの鬼一族の皮に僕の能力は通用しない。
だけど、彼女は何の気なしに僕に触れた。
彼女が何を考えているのかさっぱり分からなくなった。分かるのは相当なバカということだけ。
だけど、なぜだか彼女になろうとは未だ考えていなかった。
彼女になりすませば王宮に潜り込むことは可能だ。
ずっと望んでいたこと。
なのに躊躇っているなんて、僕らしくない。