緋女 ~前編~
休み時間が終わっていく。
彼女の魔力の波動はいっこうに図書室から動かない。まるで僕がそこに迎えに行けないことを知っているかのようだ。
妖精人間に僕の存在は知られたくない。
僕が行かなければ、妖精人間は一生僕の存在を知らないだろう。それは僕にとって都合がいい。
けど、この時間まで帰ってきてないことを考えると、彼女が妖精人間に捕まっていると考えた方がいいのは明らかだ。
それに妖精は魔法のようなものができるのに、その根本が違うらしく、その気配は僕にはさっぱり分からない。
気にしたこともなかったが、それが今になって癪に触る。
「___ちょっと出掛けてくるねー」
「えっ、ショート様」
「授業はちゃんと出るから大丈夫ー」
絡み付いた腕を迷わず振り払う。その事に少し顔をしかめた女に僕は少し乱暴だったかと他人事のように思った。
「じゃーねー」
適当にヒラヒラと手を振ってやる。振り返りはしなかった。
あいにく僕はどーでもいい奴に嫌われたところで傷つかない。
いや、誰に嫌われたところで気にしないだろう。
たぶん…………。
しばらく歩いているとチャイムが鳴った。授業の始まるチャイムだ。自然と足が速まる。
が、その足はほどなくして止まった。
「動いた………?」
不意に彼女の波動がこちらに近づいてくるのを感じたのだ。おそらく彼女は図書室を出たのだろう。
思わず迎えに来てしまったが、それがどうしようもなく僕らしくなくて、気恥ずかしい。
彼女に会ってどうする?
いったい、どんな顔をすればいいんだろ。
ああ、こんなに焦るなんて、僕はおかしくなってしまったのかも。