緋女 ~前編~
「“また明日”って、そう言ったでしょ?」
彼女はそう言うが、それが約束だというのならとんでもないことだ。
僕は約束なんてしない。
そんなのに縛られるなんてごめんだ。
もう二度と約束なんてしない。
そう僕は遠い昔に決めている。
「………会わないつもりなら、”また明日“なんて言わないで」
彼女の声は掠れている。
それでも僕にとっての“また明日”なんて“さよなら”と同意義だ。
約束とか重たいものじゃない。
そう彼女に告げることは簡単だったけど、僕は別のことを口にした。
「そんなに僕と会えないのが淋しかったの?」
「………」
そんなこと聞くなんて、本当に僕はおかしい。
だって、あの非女の娘が僕に会えなくて淋しかったなんて、どう考えてもおかしいのだ。
だけど、彼女の無言が肯定だと僕に思わせる。一種の快感のようなものが僕を駆け巡るのが分かった。
そして、そのどうしようもない感情が僕を縛りつけてしまう。
「ねえ、レヴィ。僕は約束なんてしないんだよ?」
「へー」
彼女の返事は消えそうなほど小さい。
「でも、僕はレヴィに会いに行く」
「えっ?」
「”また明日“は約束じゃないよ。また明日会いたいっていう感情を言葉にしただけ」
屁理屈ぽくて僕らしくない言葉だけど、彼女は僕にそう言わせる何かを持ってる。
「レヴィもまた明日僕に会いたいって思ったから“うん、明日”って言ったんだよね?」
まあ、それは飛んだ自惚れかもしれない。
でもさ、僕は自由だから勝手に自惚れてもいいはずで。
そう思ったら___
「僕はその感情だけでお腹いっぱいなんだけど」