緋女 ~前編~



「“また明日”って、そう言ったでしょ?」


彼女はそう言うが、それが約束だというのならとんでもないことだ。

僕は約束なんてしない。
そんなのに縛られるなんてごめんだ。


もう二度と約束なんてしない。
そう僕は遠い昔に決めている。


「………会わないつもりなら、”また明日“なんて言わないで」

彼女の声は掠れている。

それでも僕にとっての“また明日”なんて“さよなら”と同意義だ。


約束とか重たいものじゃない。


そう彼女に告げることは簡単だったけど、僕は別のことを口にした。

「そんなに僕と会えないのが淋しかったの?」

「………」

そんなこと聞くなんて、本当に僕はおかしい。

だって、あの非女の娘が僕に会えなくて淋しかったなんて、どう考えてもおかしいのだ。

だけど、彼女の無言が肯定だと僕に思わせる。一種の快感のようなものが僕を駆け巡るのが分かった。


そして、そのどうしようもない感情が僕を縛りつけてしまう。


「ねえ、レヴィ。僕は約束なんてしないんだよ?」

「へー」

彼女の返事は消えそうなほど小さい。

「でも、僕はレヴィに会いに行く」

「えっ?」

「”また明日“は約束じゃないよ。また明日会いたいっていう感情を言葉にしただけ」

屁理屈ぽくて僕らしくない言葉だけど、彼女は僕にそう言わせる何かを持ってる。

「レヴィもまた明日僕に会いたいって思ったから“うん、明日”って言ったんだよね?」

まあ、それは飛んだ自惚れかもしれない。
でもさ、僕は自由だから勝手に自惚れてもいいはずで。


そう思ったら___




「僕はその感情だけでお腹いっぱいなんだけど」



< 205 / 247 >

この作品をシェア

pagetop