緋女 ~前編~
「とりあえず行こっ?」
手袋で時間割りを勝手に調整する。
ただどんな授業も勝手に変更していいみたいに彼女には言ったけど、そんなことはない。
よく考えれば分かることだが、こんな授業中に突然横入りして授業を入れて良いわけがないのだ。
でも、レン先生は別。
レン先生の授業を入れられるのはごくわずかな生徒だけで、しかも好んで先生の授業を入れるなんて僕しかいない。
だから、先生は日のほとんどをひましている。
「あっ、そうだ」
突然彼女が思い出したように手を叩いたのは、ちょうど時間割りをいじり終わった後だった。
「なに?」
顔を上げると彼女は少し困ったように笑った。
「図書室、行ったことある?」
「___ないけど。どうして?」
僕が答える前の一瞬の間は、彼女なら気づいただろう。
「ショウに教えて欲しいことがあるの」
ほら、僕が何か知っていると勘づいている。
「教えたら僕に何をくれるの?」
その時だっただろうか?
「なにも」
彼女には敵わないと、そう思ったのは。
とにかく、その言葉に僕は唖然とするしかなかったのだ。
交換条件で迷いもせずそう返す人なんて、会ったことなかったから。
いや、この先もそんなこと言うのは彼女くらいだろう。
「約束はしない、そういう約束でしょ?」
彼女は晴れやかな笑顔で付け加えた。
屁理屈だ。
でも彼女らしくて。
「まあ、私の気まぐれでショウに何かしてあげたくなる時はあるかもね」
「………」
「その時はちゃんと受け取って?」
理不尽だ。
僕は彼女に教えてあげるのに、僕は彼女の気まぐれしかもらえない。
それでも
「レヴィは本当に我儘だよねー」
なんて、受け入れる僕がいる。
僕も大概バカだ。