緋女 ~前編~
国王陛下サマから聞いた非女の言葉の通り、俺は古い町の一角の壊された大きいだけの屋敷を訪れた。
この町にはもう十年以上人がいない。
非女の言葉が噂で広がると、王家が総出で人々の記憶を抹消していったのだ。
当時俺の耳に入ったのもこの場所だけが抜け落ちた言葉で、陛下に聞いて昨日はじめて知ったのだ。
忘れ去られ、誰もたどり着くことのなくなったこの町。かつての栄えた面影はどこにもない。
ここでは草木も息をしていないようだった。
屋敷に足を踏み入れた時、俺は微かに感じた魔力に目を見開く。
確かに王もすぐ分かると言っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
もう十年以上も前にかけられた魔法がここに生きている。
そこから感じる非女の底知れない魔力。
『死してなおも、か___』
ぽつりと呟いたはずが、この古い屋敷に一人だと妙に響いて聞こえた。
なぜ死んでまで娘を帰還させる必要が非女にあるのか。
それは長年ずっと誰もが不思議がっていた。
俺もそのことが決意してからずっと引っかかっていた。
そしてそれは、俺に非女の娘が上手く扱えるのかという疑問に俺をたどり着かせる。
………似合わず心臓がうるさい。
だがその音は無視して、俺は非女の魔力に満ちているのを一番感じる鏡の前に立った。