緋女 ~前編~
「へー」
彼女は僕の説明にただ相槌を打った。それでいい。
心のなかで一人頷いた僕は彼女に何かまた言葉を返そうとした。
その時__、
僅かだが押し殺せていない気配を感じた。
「………ねえ、レヴィ」
「ん?」
「今日はさ、ちゃんと授業しなーい?」
僕が勢いよくドアを開けたのと、その台詞はほぼ同時だった。そして、次の瞬間グリーオグ・レン先生がつんのめってそれを僕が抱き止めたのは、予想済み。
「ってことで、よろしくねー。盗み聞きの下手なレン先生?」
「なっなんで?」
「えー、なんでって………………僕だからー?」
そんなふざけたような台詞を吐いた。けど、言い訳でもなんでもなくこれは事実だ。嘘ではない。
僕は波動で人を識別できる___。
だが、先生はそれを知っているはずなのに、無邪気な瞳のまま僕を見て、笑った。
「そうかっ!気配を察知できるのはとても良いことだ。これも俺との特訓の成果だな」
「………」
僕は否定も肯定もせず、ただレヴィと顔を見合わせて憐れみの目で先生を見た。
いや、さっきも言ったが僕が言ったことは嘘ではないのだ。
嘘ではないが、多少の悪意が入っている。まあ、悪意って言っていいのかわかんないけど、僕ってすごいでしょアピールみたいな。
にもかかわらず、先生はそんなことには気付いてない。
「レン先生って、幸せそうね」
彼女が僕に呟く。
それは先生も見逃さなかった。
「そうか?」
でも、あくまでその真意には気づかない。
ここまで鈍感に物事を考えられる先生は最強にバカだ。