緋女 ~前編~
でも、彼女と視線がからまり合って馬鹿みたいに先生が笑うのは許せても、彼女の笑顔が先生に持ってかれるのは、………正直気に入らない。
「はいはい。避けてねー、重いから」
僕はわざとらしく先生を教室の方に押し返した。
昨日先生が彼女にどういう感情を持ったかなんて分かりきっている。
先生の拳が飛んで来ても、目をそらさなかった彼女。
それが先生の中で誰と重なったかなんて、聞かなくても分かる。
___たぶん、先生と僕の目的は今の所同じだ。
「先生、今日は勝負じゃなくて授業ねー?」
「おう」
僕の要求に答えつつ、先生は彼女を振り返る。
「昨日はちゃんと教えずにやっちまったからな」
「すみません」
「ん?」
「いや、私が倒れちゃったから出来なかったようなものなので」
彼女が上目遣いにそう先生に謝るのは、先生の背が高いからってだけなんだろうけど、なんかムカツク。
って、駄目だ。
授業中なんて先生はレヴィに付きっきりで教えるのに、今からこんなにイラついてどうする。
「あー、でもあれは仕方がなかったからな」
にかっと笑う先生。
今ならこのイライラで先生に勝てる気がする。
「それにしても今日はかつら、とってるんだな」
その言葉に僕はさりげなく彼女がどんな表情をしているのかを盗み見た。
「そうなんですよ」
困ったような笑いでそれ以上は言わない彼女。僕は息をついた。
「せんせー」
「なんだ、ショウ?」
「僕、お散歩してくるからレヴィのことよろしくねー?」
ここにいてもイライラするだけだし、だったらストレス発散にどっかの妖精人間を殴った方がずっといい時間になる。
レヴィに体術の授業は、自分の身を守れるようになるために、残念ながら必須だしね。