緋女 ~前編~
二人きりの教室、カケル男
「僕、お散歩してくるからレヴィのことよろしくねー?」
「えっ、ちょっとショウ?」
私が声を上げるけど、ふらっと教室を出ていってしまうショウ。
どうしよう?
ショウに聞きたかったことは聞けず、レベルの違いすぎる先生の授業を受けることになるなんて、ちょっとご遠慮したい展開だ。
先生って、手加減できなさそうだし。
「さあ、始めるか」
そんな私の心配をよそに、閉まるドアを見届けた先生は、地獄の時間の始まりを軽ーく、本当に軽ーく告げた。
「えっと、はい。よろしくお願いします」
出来れば、痛くないようにお願いします。そういう気持ちも含めて私は頭を下げる。
その思いがよっぽど顔に表れていたのか、先生は私の肩をぽんと叩いて微笑んだ。
「安心しろ」
しかしながら、それが結構痛い。
「俺が教えるのは体術だ」
私は肩を押さえつつ、説明をし始めた先生に頷いて見せた。しかし痛がる私に気づかず何事もなかったかのような先生の態度に、不安はつのるばかりで、私が本気で倒れないと、先生はやり過ぎたことに気づかないんじゃないかと思ってしまう。
自分で想像したことなのに身震いした。
どうしてショウは私を残してどこかへ行ってしまったのだろうか。
「レヴィア?」
「あっ、はい」
私は不安を振り払うように首を振って先生に向き直ると、そう真面目に頷いた。
それを見て先生も頷いて話を続けた。
「体術はただ体をぶつけ合っているだけじゃない。自分の中の魔力を高めて身体能力を極限まで上げるんだ」
「えっ?……でも、魔力は使っちゃいけないんでしたよね?」
「魔力を相手に向けてはいけないということだ。あくまで自分の体内に留める」
「はあ」
一応の返事はしたけど、そんなことできるかといえば自信はない。
「じゃあ、まずその練習から行こうか?」
「えっ?」
まだ続きがあると思っていた私は耳を疑った。
「戦わないんですか………?」
「ああ、授業だからな。それにいきなりやっても昨日の二の舞になるだけだぞ?」
「先生っ」
先生は鈍感だけど、やっぱり先生だった。
きっとショウもそれが分かってただろう。