緋女 ~前編~
「私、頑張りますね」
「当たり前だ」
私が意気込むと、先生の飾らない声が返る。先生は私の言葉を否定しているわけじゃない。
ただ、思ったことを教えてくれる。
ここまで安心できる存在もなかなかない。
「そうですね、すみません」
私は素直に謝った。
「分かればいい」
「はい」
面白くもなんともないやり取りだけど、私は笑っていた。
やっぱり、人と一緒にいると胸を温かくなる。
図書室の彼は一緒にいるのに私を見ていなくて、それが無性に空しかったのだと、実感させられた。
もう、私は前の私には戻れないのだろう。
母だけでいいと言い訳して誰とも関わろうとしなかった、あの時の私には__戻れない。
それは母への裏切り行為かもしれないけど、私は捨てられた身だ。
この世界で残りの一生を過ごすのも悪くない。
だって、私の隣にいてくれる人がいる。
それだけで、私がここにいる理由に十分すぎるくらいだ。
「じゃあ、レヴィア。早速やってみよう」
私は返事こそしなかったが、先生に真剣に頷いた。
先生の言っていたことを心の中で復唱して、息を吐いた。
まずは魔力を高める。
それだけなら魔力を使う時の基本のようなものだから、私でもできる。
でも、魔力で身体能力を底上げするっていうのは、まるで分からない。
自分の極限がどこなのかもさっぱりだ。
先生も何も言わない。
静かな空間の中で、私の息づかいが大きく聞こえる。そのうち、鼓動の音さえ聞こえてきた。
戸惑いから生まれる緊張で全神経が研ぎ澄まされる。
その時だった。
体内に流れる魔力の波動を感じた。
生き物のようなそれは、掴み所がない。私の中で溢れているのに、まるで他のもので私ではない。
魔力を極限まで高めるなら、この私ではないものをどうにかコントロールしなければならない。