緋女 ~前編~
「………なんだ、疲れたのか?」
いつまでも目を閉じたまま突っ立っている私に、幻聴がそうありきたりな言葉を投げかけてくる。
私の想像なんて、そんなもの。
「おいっ、具合でも悪いのか?」
近づいてくる足音も、気配も、全て幻だ。
「レヴィア?」
その台詞とともに掴まれた肩に、私はびっくりして目を開けてしまう。
そこには、服が裂けた先生がいた。
「先生っ」
私は安心したのと、またとんでもないことをしてしまったのとで、混乱した。
「なんだ?」
「けっ、けがはありませんか?」
「ああ。俺は魔法はきかないからな」
さらっと、そんなことを言ってのける先生だけど、私は信用しなかった。
きっと、先生は私のためにそんなことを言っているのだ。
だって、こんなに服がボロボロになっているのに、無傷なんてあり得るはずがない。
「そんな嘘言わないで見せてください」
「嘘じゃないが………それが不安なら、まあ好きなだけ見ろ」
なぜか私の反応に戸惑いつつ、先生はそう答えてくれたのだが、私は先生が言い終わる前に先生に触れていた。
腕、背中、足を順に見ていく。
「なんで…………?」
あれだけの攻撃をまともに受けたのに、先生はどこからも血を流していない。
少し何か擦れたくらいなかすり傷があるだけだ。
「だから、言っただろ?俺に魔法はきかない」
自慢でもなんでもなく、ただ事実を述べているような先生に、私は納得出来なかった。
「じゃあ、先生は世界で一番強いの?」
だって、魔法の世界で魔法の攻撃がきかないなんて、最強ではないか。
だが、先生はあくまで先生で、私にこう言った。
「いや。この世はそれほど単純ではないだろう?」