緋女 ~前編~



一瞬の間のあと、先生が答えるために息を吸った。


「たっだいまー」

だが耳に入ってきたのは突然の明るすぎる声。それは当然のこと、先生ではない。部屋のドアが開け放たれ、そこから現れたのは案の定ショウだった。

「ここはお前の家じゃないぞ」

先生が突っ込む。
それはちょっとずれたような突っ込みで、私もショウもそれには苦笑いだ。


「いやー、すっごい魔力の解放があったからびっくりして飛んで帰って来ちゃったよー。………なんか、話してた?」


笑わないその瞳は、その“なんか”の内容なんてとっくに知っているのだろう。

だいたい帰ってくるタイミングが良すぎる。偶然ではない。



あえて、先生が喋るのを邪魔した。


私に知って欲しくないのだ。“シュティ・レヴィア”のことを。

全てはそういうこと。

先生も心なしかホッとしているように見えた。



「別に。休憩してただけ」

私はそんな二人に合わせるようにそう言った。


これまでもそうだったけど、無理に聞きたいことでもない。


「そうなんだー。っていうか、壁思いっきり破壊したね」

「あははー」


さっきは先生が怪我していないかに夢中で全然気がつかなかったけど、確かに壁には大きな穴が空いていた。

これヤバイかな。

というか、学校に入るために空けた穴もだ。どうなってるんだろ?


「………ショウ、直せる?」

「うん。できるできる。まあ、直すのは後でもいいかなー」

「そう?最優先事項に思えるの私だけ?」


あまりにも軽いショウの受け答えに私は逆に焦る。


「大丈夫だってー。心配性だなー、レヴィは」


そしてショウは口の端だけで笑うとこう言った。




「でも、そんなことよりももっと心配して欲しいことができた」

「えっ?」



「もちろん、聞きたいよね?」



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