緋女 ~前編~
その時、授業終わりのチャイムが鳴る。
「えー、タイムオーバーじゃん」
その焦った様子もない声に、ショウが最初から言う気のなかったことを悟った。
可愛い少年の顔はしているが、どこまでもタイミングを外さないのが彼だ。
私はこっそり息を吐くと、今日も色々ありすぎたことを思い、まあいいかと一人頷いた。
聞き出す機会はいくらでもある。
「あっそうだ。次の授業は………げっ」
私が一人の世界に入っている間に、素早く手袋をいじって時間割りを確かめたショウがうめくのを聞いて、次の授業が何だったのかをなんとなく悟った。
そういえば私も………
嫌な予感がして慌ててチェックしてみる。
「げっ……」
私の口から出たのは先程のショウと同じ言葉。
そんな私を見て、にやっと笑ったショウ。
ムカつくけどショウが本当に笑っている顔で、そんな反応は予想してなかったから面を食らった。
美少年の顔をして不意討ち過ぎる。
そんな私から目もそらさずに、ショウは手袋をわざと隠すように、手を後ろへやった。
「せーの」
意図が分かって、半瞬遅れて出した私の手袋に映し出された時間割りと、ショウの時間割りがあの美少年・青年が大好物のあの先生で一致している。
「いやー、面白いねー。レヴィと一緒だ………けど、行きたくないな」
「私も。っていうか、あの先生なに教えてるの?」
私のふと思ったそもそもの疑問に、ショウが素直に答えてくれるはずもなく、
「なんだと思う?」
そう意地悪そうに聞いてくる。
だが、私もこの質問に迷いはなかった。
「保健」
「生徒誰もいなくなるか、一部の人だけの特別授業だろうねー、それ」
半眼になってそういうショウの瞳には、同じく半眼の私が映っているだろう。
「まあ、本当のこと言うと国史教えてるよあの先生」
「国史?」
「国の歴史。レヴィも習って損はないと思うよ。まあ、教えてくれるのは都合のいい歴史だけだけど」
「そう………なんだ」