緋女 ~前編~



「先生はさ、鬼一族の生き残りなんだよ」

見透かした瞳が私にそう言う。


「鬼一族?」

「そう。その一族の皮膚は特殊だ。魔法を防ぐ。その代わりのように自らは魔法が使えない。けど、視力や腕力、色々な部分で優れていて、一族全員が強い戦士だった」


ショウの内に秘めた怒りが見え隠れする説明に、私は曖昧に頷いた。

分からなかった。生き残りという言葉に含まれる悲しい過去を、土足で踏みいっていいのかが。


「昔の話だ」

迷っていると淡々とした先生の言葉が耳に入ってきて、私はとっさに先生を見てしまう。

しまった、そう思った時にはもう遅い。
なんの覚悟もなく、先生と目が合う。


先生の瞳に映る私は揺れていた。


「鬼一族はもうない。だから俺も鬼一族ではない」

「___非女の娘は憎くないってこと?」


先生は私に向かってしゃべってくれていたのに、ショウが口をはさむ。まるで鋭利な刃物のような響きだ。


だがそうショウが聞いたとき、先生の中で揺れる私は一つになった。



「非女の娘ではなく、あの方の娘だ」

あの方………。
それはシュティ・レヴィアの父のことなのだろうか。


その時、図書室の彼を思い出した。

“………お願いですから答えて下さい。貴女の綺麗な白銀になぜ王家の金色が紛れているんです?”


王家の金色。
あの時は彼の必死さに気をとられて、そへがどういう意味か考えることもしなかった。


だが、私は今そこから一つの真実を見いだした。


「シュティ・レヴィアの父は王家の人なの?」


王子の金髪、王様の金髪を思い出した。
確かに王家の人たちは金髪だった。思い出せる金髪は二人。

いや、待って。


確か、もう一人___


その時、頭痛が私を襲った。
頭が割れんばかりに痛い。昨日と同じだ。



薄い意識の中に不意に一つの情景が浮かんだ。

枯れぬという満開の桜。死の桜。その花吹雪の中の彼。


あれは____



ケイ。
私の愛する人。



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