緋女 ~前編~
そう思った瞬間の激痛に、私は声にならない叫びをあげた。今までこんな痛みは経験したことがない。
自然と膝が折れた。
頭を抱えてうずくまり、私はただ耐える。叫びをあげたいのにあげられない喉は焼けるように熱い。
その間も思い出すのはケイに関する記憶だった。
そう全てを思い出した。
あの何度となく向けられたあの私が憎くて仕方がないような視線。その後の苦しそうな瞳も。
首を絞められたこともあった。
その度、私は笑った。
誰よりも王子が大切で、でも、王子にはそんなとこは一切見せず、その代わりのように私に怒って。
私はそれがどうしようもなく羨ましかった。
「レヴィっ?」
ショウの焦った声に私は我に返った。心配そうに覗きこむ二つの顔に私は微笑む。
「ごめん、大丈夫」
頭の痛みは引いてきた。
だが、頭の中の整理が追い付かない。
私の記憶を消したのはケイだ。それは間違えない。
だが、ケイは私に何を思い私の記憶を消したのか。
記憶がなくなったのは、ケイの好きな場所に連れていってもらえることになって、死色の桜を見に行った後からだ。
その時に私たちはこんな会話をした。
“物騒ね、なんでここを選んだの?”
死色の桜なんてなぜ好きなのだろう。そう思ったから質問した。
“一番好きな場所なので”
“一番好きなのにそんな説明する?”
ケイの説明からは、死色の桜は命を吸うだのなんだのと、良い印象がまるでなかった。
“………見たくないのに目が離せないんです”
その言葉に私はこの場所がケイにとって、とても特別な場所だと悟った。
“レヴィア様、わたくしは一生もうここへは戻ってこないと思ってました”
ここまで穏やかな声は今まで一度も聞いたことがなかったように思う。
でも、その中に混じる複雑な感情も私には分かった。
“ここで、大事な人が死んだとか?”
言葉が見つからなかったから直接に聞くしかなくて、無遠慮にも私はそう聞いた。
そして私は聞きたくなかったことを聞くことになる。
“いえ、あの時の大事な人は今もあの城で生きています”