緋女 ~前編~
心が冷えていくのを感じる。
激しい嫉妬が私を支配していた。
あの時の、なんて言っているけど今もだ。
今も昔もケイはライサー、いや王子が一番大事なのだ。
“………王子?”
私はわざわざ分かりきっていることを確認した。
その言葉に目を見開くケイ。
“__全て知っていたのか?”
ケイが言う全ては私には分からなかったけど、ケイがライサーを大切に思っていることは痛いほど知っていた。
そして私の沈黙を肯定と受け取ったケイは言った。
“はっ、そうか。そうなのか。………じゃあ、これからどうする?悪いが、なに一つ譲るつもりはないぞ”
その時から話が食い違っていることに気づいた。
ケイの言う全ては私が、いやシュティ・レヴィアが知っていてはいけないことだったのだ。
“えっ、何を言ってるの?”
私はケイの思っているようなことは何も知らない。
ケイの教えてくれたことしか私は知らない。
そう言葉を続けようとしたが、ケイがそれを言わせてくれなかった。
“演技上手だな。非女の娘。俺の正体を知ってるんだろ?”
ケイが自分の黒の髪を触った。瞬間、金髪に変わる。
“俺の憎き異母妹さんよ”
“えっ………”
“何を言われたのか分からないって?そんな顔もう通用しないんだよっ”
いや、私はその言葉を本気で理解できなかった。
“待って、お願いだから。何が気に入らないの?”
私はケイにすがる。
だが、彼の答えは私の願ったものとは真逆で、冷たいものだった。
“お前の全部だ”
シュティ・レヴィアは彼の妹で、すごく憎まれている。
でも、憎むことを苦しく思うのは私だからじゃなくて、妹だからなの?
ほら、また苦しそうな瞳で私を見ている。
でも、その瞳にはシュティ・レヴィアが映っているんでしょ?
貴方の妹が。
“来いよ、俺と組めば王座の隣にお前を座らせてやる”
ケイがまた意味の分からないことを口にした。
“それって……?”
どういうこと、という言葉がケイに飲まれる。
“王妃にさせてやるって言ってんだ。それとも、王座を狙いに還って来たのか?”
なげやりに私を睨むけど、苦しそうな瞳だけは変わらない。
“それは王子と結婚しろってこと?”
これは単純に驚いたから出た言葉。
確かにケイが婚約を勧めたけど、でも、本気で私とライサーを結婚させたいの?
一番大事なライサーを憎いシュティ・レヴィアと結婚させる?
が、ケイの考えていることは私の範疇を超える。
“お前が結婚するのはこの俺だ。何のために今までお前の傍にいたと思ってる?”
唖然とした。
もう何が何だか分からない。
“ケイと私が結婚?”
信じられない。
だが、そんな私を置いてケイは全てを自己解決していく。
“王子様に惚れてんのか、お前”
訝しげにこちらを見るケイは、私の想いをまるで考えてもいないのに、そうだと決めつけているようだった。
私が好きなのはケイ。
そう叫びたいのに、叫べない。
その代わりのように私は彼を責めた。
常なら適当に違うと言っていただろうが、我慢ならなかったのだ。
“は?王子が大好きなのはケイでしょ?”