緋女 ~前編~
放課後の図書室、衣装の妖精
その後、私とショウは授業に急いで向かった。私がもう行こうと言って、何も二人に話さずに部屋を出てったからだ。
私は一人走った。
ショウは後ろで待ってとそう声を上げていたけど、私が止まらなくたってすぐに追いつく。
私は一人になりたかった。一人で考えたかった。
だが、全くそんな暇もなく教室に着いた。
授業は始まっていたけど、ショウが来てくれたことに気をとられていた先生は私を責めたりしなかった。
全力で走っていたから、その間私がショウと言葉を交わすことはなかった。けど、物言いたげにショウがこちらを見ているのは嫌でも分かった。
ほらまた、授業中にもかかわらずこちらの顔を窺うように見てくる。
私も話したくないわけではなかった。ただ、なんと言えばいいのか、これは言ってよいことなのか、私には分からない。
ケイが私の記憶をわざわざ書き換えたのだ。
何か意味のあること、私の知ってはいけないことだったとしか思えない。
それを無断で誰かに話すのは、私の正義に反している。
私はケイの敵にはならない。
『なに?』
ショウが十三回目にこちらをちらりと見たとき、私はそう口パクで聞いていた。
ため息をつきたいのを我慢。
なのにショウは笑わない瞳で適当に答える。
『かわいい』
私は聞いたことを後悔した。
だからと言って、ショウからまともな答えが返ってくるなんて思ってたわけではない。
かわいい。そんな言葉が私は嫌いなのだ。
私に向けられたかわいいは、何にもできないという意味だったから。
例えば、私が小学生の頃だ。私はバレーボールをしていてミスした。その時、クラスメートの誰かが言った。
かわいい。
とても便利な言葉だ。
ミスしてもかわいいから、いい。そうその子は言うけれど、私には侮辱にしか聞こえなかった。
だってほら。
バレーボールができる人がミスしたらかわいいなんて言わないでしょ?
なにやってんの。次は絶対決めて。
そう言うんでしょ?
私には何も期待してないんでしょ?
じゃあ、私は何をしていればいいの____。
それからたくさんの時間が過ぎ去って、また同じような経験を繰り返しながら、私は形づくられた。
真面目で、勉強ができて、先生のお気に入り。
友達といえる友達はいない。
なりたかった自分だった。
クラスメートに何もできないなんて思わせないし、友達じゃないけどたまに真面目だからと頼られる。先生に期待される。
かわいいなんて言われない。
しっかりしてる。クール。カッコいい。それが私。
でも、なんでだろう?
何も満たされていない気がする。それどころか、どんどん私の中が空っぽになっていく。
そんなあくる日、私は母に捨てられた。
その翌朝、ケイと出会った。