緋女 ~前編~
「えっ………?」
私は彼の返事を待たずそれを外した。眼鏡をとった彼は少しだけ幼く見える。
「あっあの」
「セルヴィアはどんな人だった?」
私は戸惑っている彼を無視して聞いた。
「えっ?」
「いいから。ね、どんな人だった?どんなしゃべり方をしたの?」
彼は押し黙った。
私の意図をはかりかねてなのか、私の質問のために愛した人を思い出してくれているのか。
やがて彼は顔を少しあげてあわない視線をこちらに向けた。
「えっと、あの………強くて、男みたいで、ちょっとプライドが高いんだけど、実は弱虫で、ぶっきらぼうで、不器用で」
少し照れたような青年はそこで一呼吸おいた。
「とても綺麗な人です」
私の思っていた非女とはかけ離れていたそれに、私は頷いた。
「そうか」
其の一言が彼の鼓膜を突き抜ける。
「…………っ、セルヴィア?」
「ああ、本をかせ」
「あっ………はい」
「私が読んでやる」
私がそう言った笑顔は私の知らない彼だった。
私はそっと息をつく。
その笑顔は私のものじゃない。
彼が非女のために残しておいた笑顔は、ちゃんと非女のもののままで終わらせたかった。
そのために、今だけ彼の非女でいたい。
「ちゃんと、聞いてるんだぞ」
私は紙の束の最初の一行を読んだ。