緋女 ~前編~
私はかつらを外して、白銀の髪をさらした。
「親愛なる友、デイリー・クレフに贈る」
それは青年の名で間違いはないだろう。
青年が焦点の合わない目が私ではなく非女を見て、その名を呼ぶ声を聞いて、泣いているのだから。
子供のように大きな声を上げて、泣いているのだから。
私はバカだった。
どうしたらケイを忘れられるとか、楽になるとか、やり過ごせるとか、そんなこと彼に聞こうと思っていた自分を笑いたい。
そんなの忘れることも、楽になることもできずにその想いをやり過ごしていくしかないに決まってる。
いや、私だって本当は分かっていたんだ。
人を好きになるということは勇気のいることだってこと。
好きになればなるほど、一人になったときの孤独は広がるってこと。
私は昔からちゃんと分かっていた。
だから誰かを好きになるのが怖かったのだから。
「昔、そこには二人の孤独な子供がいた」
物語の始まりはそんな書き出し。
中身は何だかよくあるティーンエイジャーの傷つきやすい心を吐き出したようなものだった。
ただ、これを見ていて分かるのは、彼女は相当ひねくれていて、強がっているけど弱虫の、孤独な子だったってこと。
読み終わった時、ふと顔をあげると紙の束を照らしていたのは夕暮れの光ではなく、蝋燭の光だった。
「ありがとうございます」
彼は言った。
いつの間に蝋燭をつけていたのだろう。
彼はきちんと眼鏡をしていた。
「いえ」
読んでいるとたとえ音読だとしてもあまり周りが見えなくなるらしい。
何だか気まずい。
私はちゃんと、彼の非女を見せてあげれていただろうか?
そんな困った顔をした私に、突然彼はふふっと笑って言った。
「セルヴィアと会わせてくれてありがとうございます」
私を真っ直ぐ見た彼は大人だ。