緋女 ~前編~
「それじゃあ」
図書室の入り口まで青年は私を送ってくれた。
私が大きく手を振る。少し名残惜しいと思っている自分は大分青年との時間を気に入っているのだろう。
「はい。………心配はないと思いますがお気をつけて」
何か意味ありげにドアの方に目を向ける青年に私は首をかしげた。
青年が何でもないという風に首を横に振る。
私は一応それに頷いてドアを開けた。
「…………ショウ?」
開けたときに見慣れた人影が壁にもたれ掛かってこちらを見ていた。
「遅い」
ショウは私の腕を引っ張る。そのまま歩きだそうとするから、慌てて私は声を上げた。
「すっすいません。デイリーさん、また来ます」
それが初めて青年の名前を呼んだ瞬間だった。
けど、それに青年がどんな顔をしていたのかを私が知ることはない。
「ちょっと。痛いんだけど」
引きずられるように歩く私は、ショウにそう苦情を訴える。
だが、ショウは答えなかった。
「ねえ、どうしたの?」
「…………」
「なんかあった?」
私のその質問にショウは乱暴に私の手をねじり上げて、壁に私を押し付ける。
だから、痛いんだけど。
私がその言葉を飲み込んだのは、何だか怒ったときのケイに似てるなと、そんなことを考えたかもしれない。
ほら、苦しそうに歪んだ顔なんかそっくり。
違うのは私と目線が同じくらいだということくらいで。
私にはケイの時よりもよく顔が見えた。
「……なに考えてるの」
ショウは言った。
「何って、___ショウがどうしてこんなことしてるのかなって」
「分かんないでしょ」
「うん」
私は素直に頷くと、ショウは泣きそうな顔で俯いた。
「うん。僕自身も分かんないのに、レヴィが分かるわけないよね」
私はその言葉に目を見開いた。