緋女 ~前編~



「分からない………?」

つい聞き返すが、その答えはなかった。でもその沈黙は明らかな肯定を示している。


そうか。そうなのか。



ケイは自分がどうして私の首を絞めたのか、分かっていなかったのかもしれない。名前も知らない感情に襲われて、訳も分からず私の首を絞めたのかも。



だから、あんな苦しそうな顔をしてたんじゃない?



だったら___



「___そんな顔しなくてもいいよ?」



「えっ………?」



「分かってからでいいから。私怒んないよ?」


訳も分からず何らかの感情に襲われる。
きっとそれは私たちが避けてきた感情だから、対処法がよく分からないのだ。

人との関係を限っていたら自然とそうなった。



私たち、きっと臆病で不器用なだけなんだ。
傷つけたくて、人を傷つける人なんて一人もいない。


いつか私をかわいいと言った子だって、本当は私の失敗をフォローしようとしてくれただけで、何にもできないとけなしているわけではなかったはずだ。


人は生きていれば必ず誰かを傷つける。
でも、人は生まれてからずっとそうやって生きていく。


傷ついて傷つけて。
それでも生きたいと望むのは、傷ついた分だけ分かり合えると信じているからなのだ。



「なんで?」

ショウが掠れた声で呟く。


「うーん。自分のため?」 


私はケイにそうしたように、どんなに手がヒリヒリ痛んでいてもおくびにも出さず、ただ微笑んで見せた。


今日は本当に色んなことがあった。たくさんのことを知った。


それこそ、この十七年間で本当は知っているべきことだったことを。



「私、今日分かったことがあるの」

「………」

「私ね、実はこう見えて、人にね頼られるのが結構好きみたい。すごく意外でしょ?」


でも、人に頼られると自分が強く優しい人になれたみたいに思えるから、たぶん好きなんだ。


「だから、ショウの思っていること、なんか気に入らないでもいいの。言って?」


「バカじゃないの。言ったって、なんにもなんないでしょ………」




「なるよ」




「は?」

ショウは自分自身を笑う。
そんな傷ついた心を私は分かち合いたい。




「ショウが私に全部吐き出してくれるなら私は嬉しい」


< 239 / 247 >

この作品をシェア

pagetop