緋女 ~前編~
「分からない………?」
つい聞き返すが、その答えはなかった。でもその沈黙は明らかな肯定を示している。
そうか。そうなのか。
ケイは自分がどうして私の首を絞めたのか、分かっていなかったのかもしれない。名前も知らない感情に襲われて、訳も分からず私の首を絞めたのかも。
だから、あんな苦しそうな顔をしてたんじゃない?
だったら___
「___そんな顔しなくてもいいよ?」
「えっ………?」
「分かってからでいいから。私怒んないよ?」
訳も分からず何らかの感情に襲われる。
きっとそれは私たちが避けてきた感情だから、対処法がよく分からないのだ。
人との関係を限っていたら自然とそうなった。
私たち、きっと臆病で不器用なだけなんだ。
傷つけたくて、人を傷つける人なんて一人もいない。
いつか私をかわいいと言った子だって、本当は私の失敗をフォローしようとしてくれただけで、何にもできないとけなしているわけではなかったはずだ。
人は生きていれば必ず誰かを傷つける。
でも、人は生まれてからずっとそうやって生きていく。
傷ついて傷つけて。
それでも生きたいと望むのは、傷ついた分だけ分かり合えると信じているからなのだ。
「なんで?」
ショウが掠れた声で呟く。
「うーん。自分のため?」
私はケイにそうしたように、どんなに手がヒリヒリ痛んでいてもおくびにも出さず、ただ微笑んで見せた。
今日は本当に色んなことがあった。たくさんのことを知った。
それこそ、この十七年間で本当は知っているべきことだったことを。
「私、今日分かったことがあるの」
「………」
「私ね、実はこう見えて、人にね頼られるのが結構好きみたい。すごく意外でしょ?」
でも、人に頼られると自分が強く優しい人になれたみたいに思えるから、たぶん好きなんだ。
「だから、ショウの思っていること、なんか気に入らないでもいいの。言って?」
「バカじゃないの。言ったって、なんにもなんないでしょ………」
「なるよ」
「は?」
ショウは自分自身を笑う。
そんな傷ついた心を私は分かち合いたい。
「ショウが私に全部吐き出してくれるなら私は嬉しい」