緋女 ~前編~
「___ホント、バカだね」
「うん。あっでも、他の子にこんなことしたらダメだからね。ビックリしちゃうよ」
私の言葉にショウは笑って手をはなした。
「頼まれたってこんなことしないね」
「うん。それがいいよ」
はにかむような、そんな少し気まずい空気が広がった。
それは散々ケンカして仲直りした後、話したいこと言いたいこといっぱいあるのに最初の言葉が見つからず、お互いを探りあうような感じに似ている。
いや、そのままなのか。
「あのさ」
声が重なった。
「…………なに?」
聞いたのは私。
「いや、レヴィ先に言っていいよ」
「いや、別に大したことじゃないんだけど」
僕だって、と少し口をもごつかせるショウは何だかかわいい。
あっ、これは怒られるかわいいかな?
一人ニヤついていると、こっちを見たショウはため息をつくように、でも少し緊張のある声で言った。
「何があったの?」
何があったのか。
今私がニヤついていることに関してではないことは、明白だった。
ショウが聞きたいことは分かる。
でも、私はそれに答えられない。
だって、それは一言にはおさめられないこと。
説明のしようがないことだ。
ただ、あえて言葉にするならそれは___
「良いことだよ」
私にとってプラスになることだった。
「ふーん」
ショウはそれだけしか言わなかったけど、何か言いたいことがあるように私を真っ直ぐ見つめている。
私は待った。
だって、私たちにはまだ、たくさんの分かち合える時間があるから。
「………どーでもいいんだけどさ」
ショウは頭をかく。
「それってさ、誰のおかげなの?」
その時気づいたのは、窓の外の人工的な三日月が笑っている、そんなことだった。なんだかとても冷たい光の色に私は目を細める。
ショウは気づいているだろうか?
ショウはそんな三日月と似ているんだよ。